第2744冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 礼儀正しさにまさる攻撃力はない2


いくつかのマナーのよさは、君の命令を実行する部下の気分や能率に、非常に大きな影響を及ぼす。頼めばもらえるものが、要求すれうば少ししかもらえない。非難めいた言い方をすれば、もらえる量はさらに減る。婦人のためにはドアを開き、男性のためにはドアを押さえ、女性が部屋に入ってきたら立ちあがり、コートを脱ぎ着する人には手を貸す。何百というような仕ぐさはみな心遣いの表現で、人はそれに好意的に反応しないではいられない。これらは社会生活の初歩的なきまりで、容易に学べるし、費用もかからない。ただし、ときには仕事が、あるいは昇進、契約、顧客、友人がかかっているだろう。


よくある無作法に、人の話をさえぎることがある。いわば話し方の癖で、私の見るかぎり、多くの人がそれでイメージを落としている。話し手はこのようなあからさまな侮辱に腹を立てる。話し手の考えに興味がなく、それを尊重するつもりもない証拠で、その考えがあまり重要ではないという含みがある。これはたいてい、自己中心的な人、聞くことよりも、つい話すことに夢中になる人の癖で、こういう性格は、誰にとってもあまり魅力的な、あるいは好ましいものではない。相手が話しているときには慇懃な沈黙が金である。沈黙は相手の知性と考え方に対する敬意を表すからである。


話題がひとつ、「私」に限られている人も多い。自分自身について些細なことをあれこれ並べたてるほど、聞き手を退屈させる、あるいは聞き手に失礼にあたるものはない。反対に、相手の家族や近況を尋ねることは、相手に対する関心と思いやりを表す。立ち入って、あまりにも個人的な質問をしないように気をつけなければならないが、ひとりの人間に対する君の純粋な関心を表す親しみのこもった質問は、好ましい印象を与える最も簡単な方法のひとつである。