第2745冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 銀行融資をとりつけるには


銀行から資金を借りるための、君の最近の努力は実を結ばなかったと聞いた。君が銀行融資を頼むとき、私がなぜ自分の経験を話して助けなかったのか、君には私の態度が解せなかったかもしれない。実はそれなりの理由があった。私がこの融資の申請の件をすっかり君に任せたのは、君もかなりの実業界の経験を積んだので、そろそろ金融につい二、三のことを実地で学ぶころあいだと思ったからである。


多くの実業家はふだん銀行のありがた味を忘れていて、融資を断られたり、撤回されたりすると、ようやく思い出す。実業界のこの基本的要素の重要性を過小に見積もるのは、奇妙なことである。工場、設備、在庫、社員、そして顧客のほかに、銀行家が必要であることを私自身はいつ知ったのか、覚えていないが、おそらく事業を興すまえだろう。私は無から始めたからである。君は私たちと銀行との取引き関係が確立してから入社したので、この経験をする機会を逸してしまった。(少なくとも今までのところ、私たちは銀行との緊密な関係を保っている)。


もしかしたら、君は会社の買収に夢中になって、銀行の重要性を過小評価したのではないか?


君も知ってのとおり、私たちはこれまで銀行から融資を断られたことは一度もなかった。もしかしたら、君はこの過去の実績に頼りすぎて、今回もまた、ほとんど自動的に承諾が得られるものと期待したのではないか?


融資を断れたときの君の反応は、やれれた、という感じだった。「あのあほうどもが! 連中は自分のしていることがわかっていない! 間違っている!」。君がどう思おうと、銀行家も人間だから、間違いを犯すことはある。しかし君の申請書を読みなおして、君のあげた、金を借りたい理由を考えると、今回彼らが間違いを犯したとは思われない。


銀行家は晴れた日に傘を貸すが、降り出したとたんに取り返そうとする、という人もいる。そういう見方には一理あるが、銀行家にはほかの面がある。銀行家だけは、誰もが欲しがっているものを売っている。したがって銀行家は、貸付の焦げつきを避けるために、顧客を注意深く選び、ふるいにかけなければならない。銀行の資金を誰にでも着易く貸付けるのではなく、必ず何らかのひもを付ける。(そうすれば、椅子に座ったまま、貸付た資金をポケットにまでたぐり寄せられるからだ、という人もいる)。


君の申請書から判断すると、君はこの会社の買収が私たちの会社にとって有利であると、かなり確信しているようだ。もしかしたら、自信過剰気味であったために、銀行へ提出する報告書の練り方が足りなかったのではないか?


銀行に好意的に検討してもらうには、銀行に提出する書類を作成するとき、「連中が乗り気になることは決してない!」と覚悟してかかることだ。そのような作業は時間の無駄に思われるかもしれないが、銀行をそれを義務づけるし、君もやがて、銀行が親切心から事業計画の再検討を強要していることがわかるだろう。もう一度検討して、君の目論んでいる会社の買収のために、どれだけの資金の借り入れが必要か深く考えれば、会社を大きくしたいという君の当初の熱意は多少冷めるだろう。それで君が我にかえれば、計画をもっと冷静に、客観的に分析することができるだろう。もしそうしないで、会社の買収で大きな間違いを犯せば、私たちは現在の順調な事業まで得ている利益を失うばかりでなく、私たちがこの新しい事業に着手したとたんに必要になる頭痛薬を買う金も残らないだろう。


事を急ぐと失敗を招きやすい。また会社の買収には興味をそそられるが、それは可愛い娘に惹かれるのに似ている。髪、脚、顔立ちが気に入っても、考え方がぶちこわしだったら、君はいつまでその娘に魅力を感じだろう? 会社についても同じことが言える。最初は目につかない点でも、一見明白な点と同程度に、あるいはそれ以上に、考慮しなければならない。


「目につくものが、必ずしも買うべきものではない」ことを忘れないように!


取引銀行の支店長は、君が買収を考えている会社を調査した結果、君が彼の金で買い取ろうとしている債権に不満を感じた。私の持つ競走馬と同じように、老いぼれで、のろい。在庫にも気がかりな点があった。回転率が墓地のなみによくない。