第2639冊目 プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 上司の強みを生かす


成果をあげるためには、上司の強みも生かさなければならない。企業、政府機関、その他あらゆる組織において、「上司をどう対処するか」で悩まない者はいない。答えは簡単である。成果をあげる者ならば、みな知っていることである。上司の強みを生かすことである。


これは、世渡りの常識である。現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである。たとえ上司が無能や失敗のために更迭されても、有能な次席があとを継ぐことは少ない。外から来る者があとを継ぐ。そのうえその新しい上司は、息のかかった有能な若者たちを連れてくる。したがって優秀な上司、昇進の速い上司をもつことほど、部下にとって助けとなるものはない。


しかも、上司の強みを生かすことは、部下自身が成果をあげる鍵である。上司に認められ、活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を合わせることが可能となる。自らが信じることの実現が可能になる。


もちろんへつらいによって、上司の強みを生かすことはできない。なすべきことから考え、それを上司にわかる形で提案しなければならない。上司も人である。人であれば、強みとともに弱みをもつ。しかし上司の強みを強調し、上司が得意なことを行えるようにすることによってのみ、部下たるものも成果をあげられるようになる。上司の弱みを強調したのでは、部下の弱みを強調したときと同じように、意欲と成長を妨げる。


したがって、「上司が何がよくできるか」「何をよくやったか」「強みを生かすためには、何を知らなければならないか」「成果をあげるためには、私たちから何を得なければならないか」を考える必要がある。上司が得意でないことをあまり心配してはならない。


上司もまた人であって、それぞれの成果のあげ方があることを知らなければならない。上司に特有の仕事の仕方を知る必要がある。単なる癖や習慣かもしれない。しかし、それらは実在する現実である。人には、読む人と聞く人がいる。例外的に、フランクリン・ルーズベルトリンドン・ジョンソン、ウィストン・チャーチルのように、話ながら相手の反応を捉えて情報を得るという人がいる。読むことと聞くことの両方を必要とするタイプもいる。これは、法廷弁護士に理想的なタイプである。


読む人に対しては、口で話しても時間も無駄である。彼らは、読んだあとではなければ、聞くことができない。逆に、聞く人に分厚い報告書を渡しても紙の無駄である。耳で聞かなければ、何のことが理解できない。


アイゼンハワーのように、一ページの要約が必要な人がいる。一定の思考過程を必要とし、分厚い報告書がなければ理解できない人がいる。あるいは、あらゆることについて、六〇ページにわたる数字のデータを見たがる人がいる。意思決定の準備のために、初めから関与したがる人がいる。逆に、時期が来るまでは何も聞きたくない人がいる。


上司の強みを考え、その強みを生かすには、問題の提示にしても、何をではなく、いかに、について留意しなければならない。何が重要であり何が正しいかだけでなく、いかなる順序で提示するかが大切である。政治性が意味をもつ仕事において、上司の強みが政治的な手腕にあるならば、まさにその政治的な側面から最初に説明する必要がある。上司は、何についての問題であるかを容易に理解し、その強みを存分に発揮する。


誰もが人のことについては専門家になれる。本人よりもよく分かる。したがって、上司に成果をあげさせることは、かなり簡単である。強みに焦点を合わせればよい。弱みが関係のないものになるように、強みに焦点を合わせればよい。上司の強みを中心に置くことほど、部下自身が成果をあげやすくなることはない。