第2623冊目 プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 成長と自己変革を続けるために


これらのことを紹介したのは、簡単な理由からである。それは、私が知っている人のうち、長い人生において、ずっと成果をあげてきた人のすべてが、私と同じようなことを、どこかで学んでいるからである。企業で成功した人、学者で成功してきた人もそうである。軍人もそうである。医師や教師や芸術家もそうである。


私は、これまで大勢の人たちと一緒に仕事をしてきた。コンサルタントとして、企業、政府機関、大学、オペラハウス、オーケストラ、美術館など、いろいろな組織の人たちと会ってきた。そうしたときにいつも、私は何が彼らに成功をもたらしのかを聞き出してきた。そして、必ず素晴らしい話が聞けた。その結果わかったことは、成果をあげるにはどうしたらよいかという問いに対する答えは、「いくつかの簡単なことを実行することである」ということだった。


第一に、ヴェルディの「ファルスタッフ」の話が教えてくれるようなビジョンをもつことである。努力を続けることこそ、老いることなく成熟するコツである。


第二に、私が気づいてきたところでは、成果をあげ続ける人は、フェイディアスと同じ仕事観をもっている。つまり神々が見ているという考え方である。彼らは、流すような仕事をしたがらない。仕事において真摯さを重視する。ということは、誇りをもち、完全を求めるということである。


第三に、そのような人たちに共通することとして、日常生活の中に継続学習を組み込んでいることである。もちろん彼らは、私がこれまで六〇年間行ってきたこと、つまりテーマごろに集中して勉強するという方法をとっているとはかぎらない。しかし彼らは、常に新しいことに取り組んでいる。昨夜行ったことを今日も行うことに満足しない。何を行うにせよ、自らに対し、常により優れたことを行うことを課している。さらに多くの場合、新しい方法で行うことを課している。


第五に、きわめて多くの成功してきた人たちが、一六世紀のイエズス会カルヴァン派が開発した手法、つまり行動や意思決定がもたらすべきものについての期待を、あらかじめ記録し、後日、実際の結果を比較している。そのようにして、彼らは自らの強みを知っている。改善や変更や学習しなければならないことを知っている。得意でないこと、したがって、他の人に任せるべきことまで知っている。


第六に、成果をあげている人たちに、その成功の原因となっている経験について聞くと、必ずといってよいほど、すでに亡くなった先生や上司から、仕事や地位や任務が変わったときには、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えるべきことを教えられ、実行させられてきたという。事実、新しい仕事というものは必ず、前の仕事とは違う何かを要求するものである。


しかし、これらのことすべての前提となるべきもっとも重要なこととして、成果をあげ続け、成長と自己変革を続けるには、自らの啓発と配属に自らが責任をもつということがある。


これはおそらく、かなり耳新しい助言と聞こえよう。しかしこれは、とりわけ日本のような国においては実行がむずかしい。企業にせよ、政府機関にせよ、日本の組織は、一人ひとりの人間を配属する責任や、彼らが必要とする経験や挑戦の機会を与える責任は、組織の側にあるという前提で運営されているからである。