第1344冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫) [文庫] ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)


快適さを示す足と脚


足と脚を注意深く観察すれば、自分が誰かほかの人といっしょにいて、またはほかの人が自分といっしょにいて、心地よく感じているかどうかを判断できる。脚の交差は特に正確なバロメーターとして、人がまわりの人々の中でどれだけ快適に感じているかを表す。不快なときには、このような動作はしない。また自信がある人も、ほかの人の前で脚を交差させる――そして自信は快適さの一部だ。なぜこの下肢の行動が、それほど正直に気持ちを明かすかについて考えてみよう。


ほかの人といっしょに立っているとき、片足をもう一方の足の前にもってきて脚を交差させれば、バランスがひどく悪くなる。安全という面からすると、もし本当の脅威が襲ってきたら、すぐに固まることも逃げることもできない。この姿勢では基本的に片足で立っているようなものだからだ。そのために大脳辺縁系は、快適さや自信を感じているときだけ、この行動をとらせる。エレベーターの中で脚を交差させ、片足でバランスをとっている女性も、知らない人がエレベーターに乗って来るとすぐに脚を元に戻し、両足でしっかり立つだろう。これは大脳辺縁系が、「危ないことをしてはいけない。危険な存在や問題の可能性に対処しなければならないのだから、両足を地につけてしっかり立て!」と命じている印だ。


二人の同僚が立ち話をしていて、二人とも脚を交差させているのが見えれば、互いに心地よく感じていることがわかる。第一に、これは二人の足の「ミラーリング」の行動(模倣行動として知られる快適さのサイン)を示しているし、第二に、「脚の交差は快適さを表現しているからだ。脚を交差させるこのノンバーバル行動を人との付き合いに応用すれば二人の関係がきわめて良好で、いっしょにいいると心から(辺縁系の反応で)リラックスできることを、相手に伝えられる。つまり脚の交差は、好意的な感情を伝えるすばらしい手段になる。


最近、フロリダ州コーランゲーブルズで開かれたパーティーに出席したとき、私は六〇代前半の二人の女性に会った。自己紹介の途中で、一方の女性が脚を交差させて片足立ちになり、友人の女性に寄りかかった。そこで私は、「お二人は、旧知の仲なんですね」と口をはさんだ。女性たちは目を輝かせ、どうしてわかるのかと訊いた。「お会いするのは初めてですが、ひとりが脚を交差させて、もうひとりへの好意を示したからですよ。二人が本当に仲良しで、お互いに信頼していなければ、滅多にそんなことはしませんからね」。二人はクスクスと笑い出し、ひとりが「頭の中も読めるんですか?」と訊いてきた。これには私が大笑いし、「読めませんよ」と答えた。なぜ長い友情の歴史がわかったかを説明すると、二人は四〇年代にキューバの小学校で知り合って以来の友だちだと種明かししてくれた。ここでも、脚の交差は好意を正確に表すバロメーターであることが証明されたのだった。


脚の交差には面白い声質がある。私たちは普通、大好きな人への好意から、無意識でこの動作をする。言い換えれば、好意をもっている人のほうに寄りかかろうとして、脚を交差させることになる。そこで、家族が集まっているところを観察していると、興味深いことがわかってくる。子どもが何人もいる家族では、親が脚を交差させて気が合う子どもに寄りかかるので、きょうだいの中でどの子どもにと気が合っているかを知らず知らずのうちに明かしてしまうことも珍しくないからだ。


犯罪者は、悪事を企んでいるときにパトカーが通りかかるのに気付くと、脚を交差させて壁に寄りかかり、何事もないかのように装うことがあるので、注意が必要だ。この行動は辺縁系が感じている脅威に反しているから、犯罪者たちも長くは続けない。パトロールしているのが経験豊かな捜査官なら、それが休んでいる姿勢ではなく単なる見せかけだとすぐ見破るが、知識がなければ、善良な市民だと思い込んでしまかもしれない。