第1285冊目 ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた (知的生きかた文庫) [ペーパーバック] ジョン グレイ (著), John Gray (原著), 大島 渚 (翻訳)



男と女はまったく同じ言葉を口にしていても、それが意味しているところが同じとは限らない。


たとえば、女性が「あなたは私の話を少しも聞いてくれていない」と言った時、彼女は「少しも」という言葉を文字どおりに解釈してほしいと望んでいるわけではない。「少しも」とか「絶対に」という言葉を使うのは、彼女がその時点で感じているフラストレーションの度合を表現しているのである。


それから、自分の感情を目いっぱい表現するために、女性は実に詩的で、さまざまな隠喩や誇張たっぷりな言い方をする。


一方、男性はと言えば、その言葉どおり、自分で聞いたとおりに解釈してしまう。だから結局、彼女の本当に訴えたかった言葉を理解できず、その期待に沿うことができない。


そこで次に、男性がもっとも誤解しやすい、不満を訴える言葉(◆印)、その典型的な答え方もあわせて紹介する。

◆「どこか行きましょうよ、私たち、最近ちっとも外出していないじゃない」
「嘘を言うなよ。先週出かけたばかりじゃないか」


◆「ひどいのよ、みんなが私を無視して相手にしてくれないの」
「そんな馬鹿な。誰かは必ず君のことを気にとめているはずさ」


◆「本当に疲れたわ。もう何をする気力も残っていないみたい」
「おかなしことを言うんじゃない。その気になれば何だってできるはずだ」


◆「ああ、どこかへ逃げ出したい、何もかも捨てて飛び出したい」
「そんないまの仕事が辛いなら、やめればいいなじゃいか」


◆「家な中がいつも乱雑で嫌になっちゃうわ」
「別に、いつもいつも散らかっているわけじゃないだろ」


◆「どうしてこうなのかしら。何もかもがうまくいかない……」
「君はそれをぼくのせいだとでも言いたいか」


◆「あなたはもう、私に愛情なんか持っていやしないのよ」
「愛しているよ。だからここにこうしているんじゃないか」


◆「いつもバタバタ時間に追われるだけの人生なんてつまわないわね」
「そんなことないよ。金曜日には二人してのんびり遊んだじゃないか」


◆「私はもっと夢やロマンに富んだ生き方がしたかったわ」
「君は僕がロマンチックじゃないと言いたいのかい」


以上のリストを見れば、いかに男女の会話に誤解が起こりやすいかがわかるはずである。男性は、女性のひと言をついストレートに解釈して、相手の本意をつかみそこねてしまうのだ。


さらに、男性の答えが二人の会話を言い争いへと発展させていくきっかけになることも明らかである。男と女の関係では、愛情を伝え合うコミュニケーションにくい違いは決定的な問題である。このような女性のグチのうちで、もっともよく聞かれるのが「彼が話を聞いてくれない」というものだ。たとえ、何度となく相手の男性から自分の言葉を誤訳されても、彼女はこの不満をぶつけ続ける。


だが、この言葉に対する男性の解釈は、彼女の感情をないがしろにし、逆なでしてしまう。彼は、彼女の言葉をそっくりそのまま繰り返すことさえできれば、相手の話を聞いたと思っている。だが、それはとんだ誤訳である。彼女の言葉を正しく解釈するには、次にような意味を含んでいることがわからなければならない。


「私が本当に言いたいと思っていることを、完全に理解してくれているとは思えないわ。あなたh、私がどんな思いでいるのかなんて、少しも気にかけてくれない。お願いだから私の心を理解しようとする態度を見せて」


もし、男性が彼女の心を本当に理解することができれば、彼の答え方も言い返すような否定口調にならず、より思いやりのこもった肯定的なものになるに違いない。男女が言い争いを始めようとする時、二人は必ず誤解しているはずだ。そういう時は、お互いにもう一度相手の言葉にこめられた気持ちについて考えてあげることだ。


男性の側は、女性が自分と異なった感情表現を行うのだという事実を理解できないでいるために、相手の感情をミス・ジャッジしたり、ないがしろにしたりしてしまう、それが、実りのない論争へと発展していくのである。