第1216冊目  成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


できているかどうか観察する


あるスキルを練習したあとには、本番中に現れるスキルを観察し、フィードバックを与えなければならない。フィードバックのループを短くする、フィードバックを使って練習する、フィードバックの「ポジティブな力」を使う、フィードバックを理解しているか確認する――第4章のフィードバックのルールは、練習中と同じく、本番で与えるフィードバックにも当てはまる。「正しいことを探す」とは、練習後の本番中の観察とフィードバックに関することだ。簡単に言えば、何かをやりとげたければ測定が必要で、もっとも簡単な測定方法は「観察する」ことなのだ。


営業部長は営業担当者に、特定のスキルのもとづくセールストークを練習させるかもしれない(ルール10)。ライバル会社と比較して自社製品をはっきりと説明することや、信念を持ってプレゼンテーションを締めくくるといったことだ。営業部長は話し方について担当者にフィードバックを与え、統合させる(ルール23)。しかし、そこで終わってはいけない。練習のあとの本番で、担当者が本物の潜在顧客に話をするときにも、それを観察し、練習で分離したセールストークの各部分についてさらに練習でしてきたことが重要なのだとわかる。スキルを使うことを期待されているので、スキルを学び、記憶に焼きつける可能性が高まる。


探すべきことはたくさんある。どこから始めればいいのだろう。いちばん参考になるのは、それまでの練習を振り返ることだ。これを効果的におこなう方法として、練習したスキルをまとめた観察用ツールかテンプレートを作っておくといい。それによって、リーダーも実演者も本番中に何に集中するべきかがわかる。一例をあげると、〈いきなり指名〉というテクニックがある。ロースクール(そして成功している小・中・高等学校)で盛んに使われる指導方法で、生徒が挙手していてもいなくても教師が発言を求めるものだ。その〈いきなり指名〉に関し、私たちの知るある学校は、そのなかの具体的なスキルの観察を、練習後のフォローアップとして授業中におこなう。観察は細かい点、たとえば、生徒の名前を言うタイミング(質問のまえかあとか)や、あらかじめ使うことをしらせておくかどうか(知らせておけば生徒は油断しない)、段階的かどうか(質問が簡単なものから始まり、徐々にむずかしくなる関連した質問で構成されているか)などに注目する。このように的を絞って観察すると、教師がこのテクニックを確実に使うだけでなく、リーダーも効果的な使い方について明確なフィードバックを与えることができる。


このアイデアをほかの状況に応用すると、本番中に使ってもらいたい具体的なスキルを並べた「チェックリスト」を作ることができる。それをまず練習で使い(たとえば、ワイル・コーネル医科大学の「SPEN(患者の標準診察)のなかの患者のチェックリストのように)、練習のあとは、本番で使用したスキルの具体的な観察と評価にも使う。そうしてデータを積み重ねれば、もっと練習が必要なスキルを知る手がかりにもなる。


練習のあとで、的を絞って整理した観察をおこなうと、初歩の部分からすばやく、効率的に抜け出すことができ、最終的には行動の持続的な変化につながる。私たちのワークショップでは、〈いきなり指名〉のテクニックについて、教室で使うまえに教師に練習してもらうだけでなく、スクールリーダーにも「観察する」練習をしてもらう。教師が〈いきなり指名〉を使っているビデオをリーダーたちに見せ、リーダーたちは、必要なスキルをリスト化したテンプレートを参照しながら、観察する。これによって、このテクニックの細かい点を識別する練習ができる。練習のあとでスキルを定着させるために、使う本人が練習するのは当然として、リーダーも、定着させたい主要なスキルの観察方法を練習すべきである。


この整理された観察方法を本人にあらかじめ伝えておくことによって、もう一段階、強力にすることができる。こんなふうに伝えてみよう。「今日の授業(プレー/手術/演奏)を観察させてもらいます。集中していない生徒の行動をどんなふうに指導するか(ボールをしっかり体の正面で受けるか/傷口を正しく縫合するか/はっきりと正確に音階を演奏できるか)、注意して見るつもりです」。観察が予測できることから、彼らは進んで目標に向かうことができる。何を見られるかわかっているので、観察者がただいるというだけで、責任を持って取り組む。もはや新しいテクニックを試しなさいと念を押す必要はない――責任をとるメカニズムがないときに実行を求めるのは不誠実だ。「観察」という行為によって、本番中に練習の成果を探されることが誠実かつオープンに知らさせる。