第2675冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • 全員が挑戦する


私たちのワークショップでは、提供した教材が気に入って、自分たちの組織でも使いたいと言ってくれる上級職のリーダーに出会うことがよくある。しかし最初のころは、そんなリーダー自身が練習していない場合が多いことに気づいて驚かされたものだ。私たちは、ほかの参加者がロールプレイをしているときに脇に立って眺めていた常務取締役に近づいて、訊いてみた。彼の答えは「自分の仕事ではしないことだから」だった。部屋の奥に座ってノートパソコンをいじりながら、ほかの人たちが何かに挑戦するのを眺め、自分は挑戦せずに、練習の力は偉大だと考えているほうがたしかに楽だ。


とはいえ、リーダーたちの逆の反応の目撃している。それがほかの人々に及ぼす影響はとてつもなく大きかった。ヒューストン独立学区(HISD)で、教師60人を訓練しているときのことだ。ある午後、私たちは(免除なし)というテクニックを練習していた。生徒一人ひとりが責任を持って正しく答えるように指導するテクニックだ。そのときには、ひとりの生徒が皮肉をこめて「わかりません」と言い、答えることを拒否したときの対処をみななで練習していた。そこで教師たちと同席していたHISDの中学校の学校改善責任者を務めるアナスタシア・リンド・アンダーソンが、練習の成果を発表してもらえないかと言われて、喜んで承諾した。私たちは全員で彼女と皮肉な生徒を演じる教師のやりとりを観察した。容易な作業ではなかった。アナスタシアはやんわりと主張するが、「生徒」は逆らいつづける。最終的にアナスタシアは、丁寧でありながら断固たることば遣いと口調で生徒役を説得し、すばらしい手本を示した。彼女が進んで挑戦し、持てる技能を共有したことは、テクニックの活用法としてもすばらしかったが、練習に打ちこむ積極的な姿勢も印象づけた。アナスタシアはたんにテクニックの手本を示しただけではなく、難題に挑戦すること、積極的に取り組むこと、上達のために努力することの手本も示したのだ。


現在、私たちのワークショップでは、参加者に練習させるまえにすべての練習の手本を示している。「中の上」くらいの手本を示しますとあらかじめ宣言しておき、あえていくつかの小さなまちがいをして、フィードバックを求める(これにより、フィードバックのついた練習の構成と、フィードバックの取り入れ方の手本を示す)。リーダーとして手本を示すことに気おくれを感じる人がいたとしても、最初から「中の上」を想定している(自分は完璧ではないことを明らかにしている)ので、遠慮なく挑戦できる。これは次の点で役立。(1)手本を示すことに慣れていない人のプレッシャーを取り除ける、(2)フィードバックの手本になり、(3)リーダーみずから練習に取り組む姿勢をチームに見せることができる。リーダーだからといって、かならずしも完璧ではないことを認めるのだ。これは信頼と練習の文化を築くのに大いに役立つ。


心の準備ができたら、もう一段上のレベルに引き上げてもいい――「中の上」でなく、手本そのものを示すのだ(ただし、計画したあとで)。たとえば「いまから私がちょっと試してみます」というふうに。これは練習と上達のために負うリスクのレベルが上がったことを意味する。手本を示したときには、つねにフィードバックを求める。それによって、全員が練習すること、全員が練習でフィードバックを受けることがわかる。私たちのワークショップでは、手本を示したあとでいつも「もっとうまくできたと思えることは何ですか」と聞く。するとたいてい沈黙が流れる。みな「いい人」であろうとするし、フィードバックするのにためらいを感じる。けれども、私たちは練習の文化を築きたいので、つねに彼らの背中を押す。彼らは、私たちが本心からはフィードバックを求めていないと信じこんでいるので、ここは押し通さなければならない。「少なくとも3つは改善できるところがあります。そのうちのひとつは?」。最初からこのような応答をして練習の文化を根づかせれば、ワークショップが終わるころには、参加者は喜んでフィードバックを共有するようになっている。