第2684冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • 本番中には教えず思い出させる2


「Assertive Discipline」の著者リー・キャンターは、「本番中のコーチング」を別次元に押し上げた。効果的に教室を管理するテクニックを何千人もの教師に伝授してきたキャンターは最近、コーチングのレパートリーに新しい要素を加えた――「リアルタイム・コーチング」だ。この手法は、無線装置を使って、キャンターが「授業中」の教師にコーチングするものだ。あまりに新鮮なので疑念や不安の声があがることもあるが、注目すべきは、キャンターは授業中の教師に何も「新しいこと」を教えていないということだ。その代わりに、練習のときに教えたことをもとにコーチングをしている。行動管理の枠組みはシンプルだ――生徒に明確な指示を出し、よい点を話し(ジェレミアは黙々と取り組んでいますよ」)、そして集中していない生徒を穏やかに、しっかりと指導する。キャンターはこれらの原則を教師に教え、スキルを練習させる。さらに練習のあと、授業をする教師を観察する。


授業中は教師に3つの簡単な合図だけを送る――すべて教師が練習した個別のスキルに関するものだ。たとえば、「明確な指示を出して」、「ジョシュアの話をして」、「シエナの行動を正して」。それをきかっけに教師たちは、彼のワークショップで学んだ練習したことを思い出す。この手法の効果を聞かれたある教師の発言が、マイケル・ゴールドスタインのブログ「Starting an Ed School」に載っている。「信じられなかった。全部わかっていた。1年かけて習ったんだから、当然わかっている。でもどうしたわけか、生徒のおまえで、リーが教えてくれたことがとっさに出てこなかったんだ。合図のおけげで完璧にうまくいった」。


このアイデアを異なる状況に当てはめるとどうなるだろう。たとえば、多くのリーダーが乗り越えなければならない課題だ「人前で話す」場合。アメリカの国民がもっとも怖れるのは人前で話すことだというのは広く知られている。死に対する恐怖よりも上位にランクインされるのだ。この恐怖を克服する最善の方法は、準備と練習である。スピーチの練習は、鏡のまえに立ったり、誰もいない部屋のなかでやったり、ときには静かに声を出して、読むだけでいいと思っている人が大勢いる。もちろん何もしないよりはましだが、聴衆にスピーチはプレゼンテーションをするときのいちばんの練習は(つまり、恐怖を克服するには)、実際に聴衆のまえでスピーチしたり、本番と同じ方法でプレゼンテーションをおこなったりすることだ(ルール12)。たったひとりの聴衆でもかまわない。重要なのは、誰かのまえで練習すること。理想を言えば、本番で聴衆になる人といっしょに練習することだ。


私たちがワークショップの準備をするときには、おのおのの担当部分をほかのメンバーのまえで疲労して、フィードバックを与え合う。話す内容や発表のしかたについて指導し合うのだ。そしてワークショップのあいだ(練習のあとの本番)、練習のときに与え合ったフィードバックとコーチングを利用しつづける。ワークショップでは、私たちの誰かが部屋の後方に立ち、発言者にことばを使わない合図を送っていることがおくある(たいてい2、3人のチームを作って、ワークショップの一部交替で受け持つ)。たとえばエリカが、もっとゆっくり話すこと、姿勢をよくすること、指導力を強めるために部屋のなかを歩きまわる回数を減らすことに取り組んでいる。練習してきたこれらのスキルには、それぞれ決まった合図がある。ワークショップのあいだに、エリカにその合図を送れば、授業の内容や進行を妨げずに取り入れることができる。合図の送り方をまえもって練習していなければ、エリカはワークショップのあいだに新しいスキルを教わることになるので、むずかしく、そちらに気を取られて、授業の質が落ちてしまう。