第2846冊目 私の財産告白 本多 静六 (著)


人生と財産―私の財産告白

人生と財産―私の財産告白


したがって、私もその伝でいて、いつも人を叱らねばならぬ場合は、まずその人の長所を挙げて、それを補うべき一事宛をよく注意することにしてきた。たとえば、君はこれこれの点は実にエライが、ただ一つこういうことになるとちょっとマズイ、だから、これこれのことを改めさえすれば実に綿上花を添えるわけになる、どうか気をつけたまえ、といったように。


ことに難しい中にも難しいことは、すでに一家を成して、相当の自信をもっている人々への叱責である。だれしもしっかりやっているつもりの自分の仕事に、上長または同僚からとやかくいわれるくらい、ピリッとくるものはない。自信をもてばもつほど不快の感は大きい。したがって、この不快を起こさせず、いかにして有り難いい忠告と思わせるように注意するか。それがなかなか難しい。


そんな場合には、その事柄について一言し、態度がどうの、心情がどうのと、その他のことについて決して批判がましいことをいわぬようにしてきた。いいたいことの全部を尽くしてはかえって逆効果になる。そうして一度注意したことには、わざとしばらく触れないようにし、自分自身で充分反省できる機会を与えることにしてきた。