第2651冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • スキルを個別に練習する


スキルを分離した反復練習についてもっと理解してもらうために、イントロダクションでも紹介したアンコモン・スクールズのワークショップの例をあげよう。私たちが(100パーセント)と呼ぶテクニックを教師に使いこなしてもらうためには、ことばを使わず手ぶりで効果的に正す必要があるのはわかっていたので、反復練習を開発した。まず教室でよく目にする生徒の行動(たとえば、机に突っ伏す、不適切なときに手を上げる、窓の外を眺める、靴をいじつ)のリストを教師にわたす。教師はおのおのの手ぶりをいくつか決めて、その手ぶりで何を求めるか生徒に説明しておく(たとえば、自分の目を指差したあと発言者を指差すのは、発言者を見なさいという合図。右手を高い位置から下におろすのは、手をおろす合図。両手を重ねて背筋を伸ばすのは、姿勢を正す合図)。このスキルを効果的に分離するために、私たちは、問題行動をとる生徒の役をあらかじめ割り振っておいて、教師には童謡や「忠誠の誓い)など、なじみのあるものを教えながら、自分で決めた手ぶりの練習をしてもらう。教師は教師の流れを中断せずに、手ぶりで生徒の行動を正さなければならない。


教室のなかで想定さえれるほかの複雑な状況も取り除く。この反復練習では、ほとんどの生徒は従順であることにして、クラスじゅうの生徒に目を配らせなくていいようにする。誰がどんな問題行動をとるのかも決めておき、教師がすぐに見つけられるように、生徒役の人には大げさにふるまってもらう。練習でおこなう授業自体も単純化して、内容については問わないことにした。ペース配分のプレッシャーも取り去る――従順で熱心な生徒であることは保証されているので、急がされることなく、ゆっくりと合図の練習ができる。


この練習で何度も手ぶりの合図をくり返し、自然にできるようになるのが目標だ。理想的なのはそれが行動の期待と密接に結びつき、日々強化されていくことだ。教室で適切なときにそうして指導する回数が増え、使っている自覚すらなくなることもあろうだろう。分離したそのスキルはどんどん使い心地がよくなり、やがて筋肉の記憶に刻みこまれる。


ここでセールスマネジャーのトニーを紹介しよう。トニーが新たにまかされたチームは、社内のほかのチームよいり売上を伸ばそうと張りきっている。トニーはできるだけ早く彼らに販売させたいので、必要な情報はすべて与え、顧客への売りこみ電話のかけ方や、販売会議の進め方など、複雑のスキルを同時に練習させる。チームメンバーは積極的に参加し、成功に必要なスキルを練習できて喜ぶ。みなすぐに上達し、雇った新人の何人かはすでに強力なテクニックを持っていたので、トニーはさっそく販売を開始させるが、初めは結果がよくない。売上は少ないし、チームの士気も低下している。トニーはまたチームを観察して、一人ひとりのスキルにばらつきがあることに気づく。結果が出ないメンバーは、アイコンタクトや相手の話を聞くといった足りないものが基本的なスキルが欠けていた。成功しているメンバーのなかに基本的なスキルがいくらか足りない者がいるが、代わりに何かしら補う手段を持っていた。顧客のとって重要なことを示すのには長けているが、顧客の言うことに耳を傾けないメンバーもいた。要するに、トニーのチームは、鉛筆を妙な具合に持って書こうとしたり、針を正しく持たないで縫合の練習をしたりするのと同じようなことに時間を費やしていた。どうにかやっていくために、粗末なテクニックをくり返し使って、それが癖になっている。トニーには、基本的なスキルに立ち戻って訓練し直さないかぎり、どこかで停滞期に入ってしまうのがわかった。


こうした状況はたやすく起こりうる。よくある不幸は、個人のスキルの習得の度合いに関係なく、会社に入った新人は好成績をあげるものだと期待することだ。新しい従業員が入っても、分離したスキルを練習させることはめったにない。最善のシナリオでは、プロは必要に応じて引き返してスキルをの伸ばすのだが、私たちは間に合わせのスキルをやりくりしがちだ。たとえ一時的に成功しても、やがては人を雇って弱みを埋め合わせなければならなかったり、伸ばしてこなかったスキルに対処させざるをえなかったりする。


それよりはるかにいい方法がある。研修プログラムや入社訓練を、成功に必要な個別のスキルを学ばせる機会ととたえ、その後の強力な土台を作るのだ。