第2094冊目 FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 ジョー・ナヴァロ (著), トニ・シアラ・ポインター (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

  • ガラスをきれいに、塗装を新しく、照明をつけて


私がまだ少年のころのある日、マイアミで父の運転する車に乗り、いっしょにホームセンターを探していた。ようやく一軒見つけたと思ったら、父は前を素通りしてしまった。「どうして止まらないの?」と尋ねた私に、父はこう答えた。「窓ガラスが汚れているからさ。あの店は自分の店に気を配っていないんだから、客に気を配るとは思えないね」。そういうことが大事なのだという、父の教えだった。


第1章で、環境が行動にどれだけ影響するかという「割れ窓」の研究について触れた。自分の会社がまわりからどう見えるか影響を与え(犯罪まで引き起こし)、よい環境はよい影響を与える。自分の会社がまわりからどう見えるかを管理するには、この強力なノンバーバルを利用できるし、利用すべきだ。そうしてみると、これまで上辺だけだと思っていた多くのことが、実際にはまわりから見える印象を決める大事な要素であることに気付くだろう。たとえば宝石店のショーウィンドウは、ほかの小売店に比べて最もきれいに磨き上げられている。なぜだろうか? 通る人が覗き込むようにだ! わざわざ汚れたショーウィンドウを覗く人はいない。家を売りたいと言ったとき、不動産屋はどんなアドバイスをくれるだろうか? 垣根を刈り込み、芝を刈り、ペンキを塗り直して、(もちろん)窓ガラスを磨くようにと言うだろう――すべて、家の「第一印象のアピール」を高めるために。


私も第一印象のアピールで銀行を選ぶ。どの銀行も、銀行は銀行じゃないかと思うかもしれない。そのとおりだ! すべての銀行は同じ最優遇貸出金利を基準にして利息を決めているから、どこも大差ない。顧客はどの銀行に預金するかを、次の三つの要素で決めている。外からどう見えるか、中に入ってどう見えるか、そしてどんな待遇を受けるか。ほとんどの業種でも、そこでしか手に入らない商品がある場合を除いて、同じようなものなのだ。


ガソリンスタンドも、どこでも同じ商品を売っているという点で、銀行によく似ている。賢いスタンド経営者は、照明が明るいスタンドほどドライバーはガソリンを入れたいと感じることで、経験から学んできた。隣り合ったふたつのガソリンスタンドがあり、一方は照明が明るくて手入れが行き届き、もう一方は照明が暗くて手入れが悪いとき、たとえガソリンの値段が少しだけ、一セントか二セント高かったとしても、みんな明るくてよく手入れされたスタンドのほうに入っていく。なぜだろうか? 完全だと感じるからだ。物質がエネルギーに等しいように、安全は快適さに等しい。安全でなくなると、快適ではなくなる。十分に不快な状態になると、脳は自分が安全ではないと判断するようになる。


この快適/安全の方程式は、ぎゅうぎゅう詰めで身動きのとれないエレベーターや切り立った崖の縁から、靴の中にサソリを見つけたときまで、あらゆる状況で通じる。私が以前に働いていた大学では、キャンパスにある駐車場を利用する人が少ない理由を、学生たちに尋ねてみるまでもなかった。尋ねられたときの答えは実に簡単なもの――街灯が少ないから。学生たちは照明の暗い駐車場より、街灯で明るく照らされた路上に駐車するほうを好んでいた。照明は単なる快適さだけの問題ではない。照明は防犯にも大きく役立つため、快適な照明を怠ったとして訴えられた企業は多い。


安全は売り物になる。人は安全だと思うと快適に感じるからだ――自動車業界は車にエアバックを装着したとき、それに気付いている。安全の話になるとエアバックは一個では足りないらしく、私の車には六個もある。十分な安全装置ほど、特に子どもを乗せているとき、快適さを感じさせてくれるものはほかにないから、人々はかなり高い金額を支払うこともいとわない。