第1934冊目 「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント [単行本] ジェリー ワイズマン (著), Jerry Weissman (原著), 武舎 るみ (翻訳), 武舎 広幸 (翻訳)


「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント

「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント

  • 作者: ジェリーワイズマン,Jerry Weissman,武舎るみ,武舎広幸
  • 出版社/メーカー: ピアソン桐原
  • 発売日: 2012/12
  • メディア: 単行本
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「傾聴」についてオバマ大統領に学ぶ 一度に複数の質問をさばく方法


「耳を傾ける」という社交術は、二一世紀に入ってから絶滅の危機に瀕しています。代わって、人の話をきちんと聴かない無作法な行為が急速に増えており、これは社交の場では「気にさわる行為」程度ですむものの、ビジネスや政治となる命取りにもなりかねません。


人の話をきちんと聴いていなかったことが露呈する場面としてありがちなのが、一度に複数の質問をされた場合です。そのような質問はバラバラな内容の寄せ集めであることが多く、その多岐にわたる質問愛用を発表者が全部覚えておくのは至難のわざです。このような場合、よくある答え方は次の二通りです。まず、一つの質問にだけ答え、残りは無視して別の人の質問を促すというもの。もう一つは、一つの質問に答えたうえで、質問者に「ほかの質問は何でしたっけ?」と尋ねるというもの。いずれも、発表者がよく聴いていなかったことを印象づけてしまう答え方です。「よく聴いていない」は失敗を招く行為です。


さて、一度に複数の質問をされた場合にどう受け答えするかですが、私がおすすめするのは、片方の質問に答え、質問者に「もう一つ、質問をなさいましたよね」と水を向ける方法です。これと、「ほかの質問は何でしたっけ?」と訊き返すやり方の違いに注目してください(後者は質問についての質問です)。このテクニックを使えば、質問者は次の質問をもう一度話すか、あるいは「もういいです。その質問についても、今答えてくださいましたから」というのかのどちからでしょうから、皆さんは危機を回避できるというわけです。


オバマ大統領はまた別のテクニックを駆使して、一度に複数の質問をさばいていました。ホワイトハウスの東の間での記者会見で、『ニューヨーク・タイムズ』紙のジェフ・ゼレニー記者に「大統領就任後、最初の一〇〇日間についてお伺いします。ホワイトハウスに関することで、大統領が一番驚いたこと、一番嬉しかったこと、感心したこと、困ったことは何ですか?」ときかれたときのことです。


大統領はとっさに上着のポケットからペンを引き抜き、こう言いました。「まずは質問を書き留めましょうかね」。するとほかの記者たちがどっと笑いました。


そしてゼレニー記者が質問を繰り返す間、大統領はそれを書き留めていきました。


大統領「私が……最初の質問は何でしたっけ>?」
ゼレニー記者「驚いたこと……」
大統領「驚いたころ……」
ゼレニー記者「困ったこと……」
大統領「困ったこと……」
ゼレニー記者「嬉しかったこと」
大統領は「嬉しかったこと」と言ってほほ笑み、「いいですね」と言い換えて、また笑いを誘いました。


大統領はゼレニー記者の質問に注意深く耳を傾け、言われた内容を繰り返すことによって、自分が傾聴していることを示し、告げられた内容を書き留めることによって再確認し、「私はあなたに気を配っていますよ」という明確なメッセージを発したのです。


大統領のこうしたアプローチを、大半の政治家ののらりくらりとした受け答えと比べてみてください。私たちアメリカ国民は、政治家のこうした「答えになっていない答え」について、苦々しく思いつつも、少なくとも「大目に見る」ことだけは覚えました。しかしビジネスでは逃げ口上が通用するはずがありません。それなのにプレゼンテーションでは「一度に複数の質問」が来ると処理を誤り、逃げ口上でお茶を濁そうとしているような印象を与える発表者が多いのです。実際には、ごまかそうとしていわわけではなく、複数の質問すべてに答えられなかっただけなのですが。とはいえ、「人の話を聴いていない」と思われてしまう結果に変わりはありません。


オバマ大統領を見習いましょう。今度皆さんのプレゼンテーションで、だれかが一度にいくつもの質問をしてきたら、ペンを取り出して、質問の内容を確認しながら書き留めていきましょう。あるいは質問を一つだけ選らんでそれに答え、こう言いましょう。「ほかにもご質問がありましたよね」きっと『ニューヨーク・タイムズ』紙のゼレニー記者がしたように、質問を繰り返してくれるでしょう。


質問の意味と答えを考えるのは皆さんの仕事ですが、とりとめのない質問を覚えておくのは質問者本人におまかせしましょう。