第1386冊目 「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント [単行本] ジェリー ワイズマン (著), Jerry Weissman (原著), 武舎 るみ (翻訳), 武舎 広幸 (翻訳)


「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント

「心を動かす」プレゼンテーション―実例から学ぶ80のヒント

  • 作者: ジェリーワイズマン,Jerry Weissman,武舎るみ,武舎広幸
  • 出版社/メーカー: ピアソン桐原
  • 発売日: 2012/12
  • メディア: 単行本
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質問の受け答えは声に出して何度も練習 最高裁判事エレナ・ケーガン


オバマ大統領が指名した最高裁判事エレナ・ケーガンが上院で承認されるには、上院司法委員会の公聴会を通過しなければなりませんでした。もちろん、ケーガンの前にオバマ大統領が最高裁判事に指名したソニア・ソトマイヨールや、それ以前にジョージ・ブッシュ大統領が指名したジョン・ロバート、サミュエル・アリトを含め、歴代大統領が指名した候補者のだれもがそうだったように、エレナ・ケーガンは(特に共和党議員から)情け容赦ない質問を浴びせられました。政治の政界のおいてはどんなことでも許されてしまいます。現職大統領自身のイメージを悪化させるため、あるいは大統領の選択が誤りであるとの印象を与えるため、野党としてできることは何でもしてやとうという勢いなのです。


公聴会での厳しい質問に備えて、エレナ・ケーガンは上院での公聴会をできるだけ忠実に再現するだけでなく、上院議員たちからの辛辣きわまりない質問など、およそ考えつくことをすべて盛り込んだ「マーダー・ボード」と呼ばれる模範討論に長い時間を費やしました。これについては報道番組のレポーター、ジュリー・デービスが、政治情報サイト「リアル・クリア・クリティックス・ドットコム」の記事として書いています。この記事の中で注目に値するのは、ブッシュ大統領に指名されたジョン・ロバート、サミュエル・アリト両判事の公聴会の準備を手助けした弁護士ラシェル・ブランドがこう指摘している部分です。「マーダー・ボード(の目的)とは難しい質問を、考えられる限り意地の悪い方法で、何度も、何度も、何度も、問いかけることだ」


「何度も」を三度も繰り返したのには大きな意味があります。第一部と第三部で、実際の聴衆を想定して、声に出してプレゼンテーションの予行演習する「声に出してのリハーサル」を紹介しました。やっかいな質問への対策においても、この声に出してのリハーサルが、プレゼンテーションそのものの練習と(少なくとも)同じくらい重要になります。予想されるやっかいな質問をリストアップし、各質問に対する回答を練り上げるだけで十分だと思えるかもしれませんが、それは間違いです。はるかに効果的なのは、だれかにこうした質問を次々にぶつけてもらい、その回答を声に出して言うことです。そして、それを何度も何度も何度も繰り返すのです。質問と応答を繰り返すことにより、本番でもきっぱりと歯切れよく答えることができるようになります。


シリコンバレーに本拠を置く某企業のCEOは、新規株式公開に向けた投資家説明会の準備のため弊社のプログラムを受講したことがあり、その後、次期四半期のアナリスト説明会を準備するときに、そのプログラムの受講内容を思い出して、予想されるやっかいな質問をカードに書き、カードを見ながら回答を口に出してみるという練習をしたそうです。しかし残念ながら実際の説明会ではスムーズな回答ができなかったとのこと。プレゼンテーション対策を見直すために電話をかけてきたCEOに、私はこう説明しました。「予行演習だからといって、想定問答集を見ながら回答するだけでは、生身の人間から質問をぶつけられる訓練の代わりにはなりませんよ」


最高裁判事候補エレナ・ケーガンのマーダー・ボードは「正しく」行われました。前述の記事によれば、ケーガンには「約二〇名が質問を浴びせました。これにはオバマ大統領のチームのメンバー、エレナ・ケーガンの研究仲間、それにホワイトハウスや司法省の弁護士らが加わっていました」。こうした人たちのおかげえ予行演習は本番にきまめて近いものになったのです。


皆さんも次回から質疑応答の準備では、内外のメンバーに答えにくい質問をどんどんぶつけてもらってください。そして質問者に向けて何度も何度も何度も答えるのです。


テニスの練習で何度も何度も何度もボレーを繰り返すのと同じように。