第1292冊目 FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 [単行本] ジョー・ナヴァロ (著), トニ・シアラ・ポインター (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学


マリオット・インターナショナルは従業員をきちんと教育して、従業員に期待される行動を明確に伝えるという方針を守っており、その姿勢にはいつも感心させられる。たとえば、マリオットではすべての従業員が――客室係から駐車係、接客主任から支配人まですべて――おはようございますと挨拶し、それも心から言っているように見える挨拶をすることが徹底されている。これは大きな違いを生む。ほかのホテルでは、スタッフが客の目を見ずにすれ違い、まるで何かを恥ずかしがっているような様子だ。けれどもマリオット・ホテルに入っていたときやホテル内を歩いているとき、心から挨拶されると、自分が特別な存在になったような、そこが特別な場所のような気分になる。


この小さな違いが重要なのだ。ついこのあいだ、地元のレストランのウェイターが、食べ物を待っている客の目の前でメールを打っているのを見かけた。仕事を中断しなければならないほど大事なメッセージがあるだろうか? ここで教育が必要になる――ダイニングルームで働いている間に携帯電話を使ってはいけない。電話は休憩時間にかければいい。昨今は飛行機の客室乗務員まで、携帯電話の誤った使いかたをしているのを見かける。ドアがすでに開いているのに電話やメールに忙しく、乗客が案内なしで機内に入らなければならないことがある。


何においても、笑顔で伝える前向きな態度ほど強力なノンバーバルはほかにない。少し前に、私はコーヒーを飲みながらクライアントと話ができる場所を探していた。あるコーヒーショップで、レジのあたりに店の案内カードが見当たらなかったので、レジ係に一枚もらえないかと頼んでみた。彼女はちょうど別の客の会計をしている最中で、私のほうに目を向けることもなく、少しお待ちくださいとも言わずに、ただ「今、切らしています」とそっけなく言った。そのひと言で、店は私という将来の客を失った。それとは正反対に、オープンしたばかりで案内カードがまだ出来上がっていなかったあるレストランでは、レジ係の女性がメニューのコピーを私に手渡しながら、笑顔でこう言葉を添えた。「私どもの電話番号は、この中に書いてあります」。


この章であげたたくさんの例、モテルのチャックイン、食品スーパー、コンピューターショップまでの話は、次のようなメッセージを伝えている――とにかく行動を起こすことは、まったく行動しないよりもいい。


「ビルの処方センター」は、フロリダ州ブランドリンにあるすばらしい薬局だ。ジョン・ノリエガが父のビルから数年前に店を継いでおり、一九五六年以来、どこをどう見ても目ざましい成功を遂げてきた。この盛況な薬局のすぐ隣には大型チェーン店ウォルグリーンズがあり、一マイル以内には別の全国チェーンの薬局が三店舗も店を構えているのだが、何とか車で一時間以上もかかるオーランドから、薬を求めてビルの店にやってくる客までいる。なぜだろうか? それは従業員全員が、すぐに行動を起こしてくれるからだ。どんな問題でも解決するまで努力してくれる。保険会社が支払ってくれない? この店が電話をして、支払いにこぎつける。医者が折り返しの電話をくれない? その医者にはジョンからの電話が入る。車で店まで行けない人がいれば、店のほうから車で来てくれる。何か説明してほしいことがあれば、印刷物をもらうだけでなく、薬剤師からじかに説明を聞ける。客が店内に入ると従業員のひとりが必ず対応し、しかも名前を覚えている。想像してみよう――この時代にあって、正真正銘の顧客サービスだ。


私の家から歩ける距離に薬局が二軒あるが、私はいつも二八マイルの距離を運転してビルの店まで行く。そのサービスと親しみやすい雰囲気には、その距離を運転するだけの価値がある。あなたの近所にそういう店がいくつあるだろうか? 「ビルの処方センター」は競争など怖がっていない。こと商品とサービスに関する限り、競争相手はいないからだ。事実、おいそれとは真似のできないゴールドスタンダードになっている。この店のビジネスモデルはいたって単純なもので、「お客様に丁寧に対応し、お客様が来店した瞬間から、お客様のために行動を起こす」となる。顧客は群れをなして何度でも戻ってくる。


行動と同じくらい大切なのが態度だ。態度を測定することはできないけれど、売上の増減となって表れる。そして態度のほとんど、ノンバーバルで表現される。店や会社に入って、むかつくような態度の人物を相手にした経験は、誰でもありありと思い出せるのではないだろうか。そういう人物について、私たちは何を観察しているのだろうか? わずかにしかめた顔で、バカにしたような表情まで、すべて目に入っている。そんな表情は見たくないし、私たちは顧客として、そんな行動に対して利益をもたらすべきではない。