第1221冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)] 佐藤綾子 (著)


小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力


響きのよい音とリズムで聞き手を引き込む


二〇一〇年六月九日/ネットメディア用対談
「私はアナログ人間、皆さんはハイテク人間。アナログとハイテクのハイブリッドが必要だ」


二〇一〇年七月五日/愛媛県新居浜市
「今までの自民党には闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった」


聞いている演説の音が心地よければ、内容は内かなと注目したり、まず聞いている音の心地よさが相手の聞く耳を誘っていきます。


このなかの一つのテクニックが、「連辞(レペティション)」のテクニックです。これは似たような音、あるいは似たような意味の単語を次々と並べていき、「そして」だとか「といっても実は」などというような余分な接続詞を文章のなかからすべて省いてしまいます。それによって聞き手はたたみかける強いリズムが感じていくわけです。


例えば先の「私はアナログ人間、皆さんはハイテク人間。アナログとハイテクのハイブリッドが必要だ」というのもこの連辞のテクニックです。○○人間、○○人間と二つの人間のスタイルを「点」でつなぐだけで並べ、最後にハイブリッドだというふうに人間の種類を並べています。


この連辞のテクニックは、彼が何より大きな主張をする時、必ず使われる手法でもあります。例えば新居浜市の演説でも、「自民党民主党の批判ばっかりで自主性がないじゃないか、自民党独自の政策がないじゃないかと言われいてる」という世評に対して反論を展開する際にもこの連辞の手法が使われます。


民主党が大負けしても自民党が大負けしても、参議院選挙は政権を取るわけではない。つまり参議院選政権交代にはならない」と彼は言うのです。そして、「それは一流の野党になるためだ」と思いがけないことを言います。さて「一流の野党」とは何かと聞き手は思うにちがいありません。


そこでこう言うのです。「今までの自民党には闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった
」。一つのセリフを言うたびに左手の人差し指を斜め上方に向けて、「闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった」と似たような音の言葉を並べていきます。連辞のテクニックです。


この二つのフレーズは、「○○が足りなかった」「××が足りなかった」というふうに音がそろうわけですが、その二つの文章のあいだは、「。」の句点がついて、はっきり切れるわけではないのです。


類似した、あるいはまったく同じ音を使って、Aが足りない、Bが足りない、Cも足りない、Dもたりないとたたみかけ、本当にいろいろ足りないんだというふうに聞き手が理解し、そのリズムの小気味さゆえに話に引き込まれていくテクニックです。


これは父・純一郎が大変上手だったテクニックであり、オバマ大統領はじめ、アメリカの大統領たちが必ずといっていいぐらい演説に使うテクニックです。


もしも読者のあなたがセールスマンだった場合、あるいは社内で何かの企画を通そうとする場合、意味に共通性のある類似した、調子のよい音の言葉を選んで次々に並べて、リズムをつくってたたみかける「連辞」のテクニックをぜひ使ってみてください。聞き手を自然にそのリズムに巻き込んでいく効果があります。


ただし、「○○です。つまり、それはすなわち、エー××です」というような一般的な言い換えはダメです。つなぎの音がなく、ズラズラと同音の言葉を連ねていく「連辞」のテクニックは、頭の良い人しか使えません。


最初の言葉を言っているあいだに次、または次の次の言葉を忘れてしまうと連辞が崩れて、「エー、つまりその……」となってしまうからです。私がすぐに思い浮かべるなかでは、言葉を並べているにもかかわらず、連辞がくずれて「エー」「アノー」と、つなぎの音が一番入るのは亀井静香氏です。


連辞は、頭が整理されている時にはじめて使えるテクニックで、これによって良い音の流れをつくることができます。ぜひあなたもプレゼンやスピーチで試してみてください。


暗記力に自信がない人はやめましょう。