第2087冊目 小泉進次郎の話す力 佐藤綾子 (著)


小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力

  • 「連辞」でリズムをとってたたみかける


私たちが人に話すに、いわゆる学校文法に忠実に、「こいう出来事がありました。そのあと、これがありました。しかし、こうです。なぜならば」というふうに、あいだにいくつもの接続詞を入れながら文章でつないでいくやり方は、文法的には正しいものです。


しかし、それを耳で聞くと、どうしてもリズムがゆっくり過ぎて、なんだか間延びした感じがするのです。


それを避けるために使われるのが「連辞」の手法です。西洋型の演説ではよく使われる手法で、「連辞」の名手はオバマ大統領です。


小泉氏も、この連辞の名人でした。例えば二〇〇一年五月七日の内閣総理大臣所信表明演説で、彼はこう言ったのです。


「痛みを恐れず、既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれず、恐れず、ひるまず、とらわれず」の姿勢を貫き、二十一世紀にふさわしい経済・社会システムを確立していきたいと考えおります」


この文章だけを見ても、小泉氏がどれだけ連辞の名人だったか、達人だったかがわかります。「痛みを恐れず、既得権益の壁にもひるまず、過去の経験にとらわれず、恐れず、ひるまず、とらわれず」の姿勢を貫き、二十一世紀にふさわしい経済・社会システムを確立していきたいと考えおります」。このワンセンテンスは「痛みを恐れず」から始まり、「考えております」で終わるのですが、そのあいだのすべての動詞が、「そして」とか「あるいは」などのような中継ぎの言葉を端折って、全部点で並んでいることがわかります。


しかも、これを読者の皆さんは、読むのではなくて、言葉で発音してみてください。そうすると、この連辞が生み出すリズムのよさいビックリするはずです。


このリズムのよさがアップビートの曲のように私たちの耳に心地よく響き、なかなかテレビの前から離れられなくなって、もっとこの演説を聞いてみようと思うわけです。


連辞は話すことにかなり慣れている人しか使えない手法ですが、連辞をつくろうと思ったら、「恐れず、ひるまず、とらわれず」のように、この三つのフレーズの最後の音が「れず」「まず」「れず」というように、同じ音を作る脚韻を踏んでいることに気をつけましょう。さらに、単語はすべて連辞で、演説をアップビートに盛り上げる音のリズムになっているかも気をつけましょう。


こんな連辞がうまく使えると、あなたのスピーチや演説にはひときわリズムと迫力が出ます。