第2088冊目 小泉進次郎の話す力 佐藤綾子 (著)


小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力

  • 「自分と視線が合った」と思いこませるアイコンタクト効果


演説をする時に原稿を見て演説をするやり方はとにかく最悪です。このたび、二〇一〇年九月に民主党代表選を戦った時の菅直人氏がそうでしたが、原稿はきっと中綴じになっていたのでしょう。


机上に置いた原稿の両サイドを両手で持ち、持った手の先が震えたり動いたりするやり方が管氏のクセで、代表選出馬の際の演説から、最後、九月十四日火曜日の選挙直前までこのクセが直りませんでした。


このように原稿を持って時々原稿に目を落としていると、どうしても聴衆の視線を見ることができません。その点、リンカーンケネディクリントンオバマと立て続けに演説の名手を出してきた米国大統領選挙選では、こんなことは一切ないのです。聞き手の顔を見えることもせずに演説をすることの非効率さと、愚かさを彼らはよくよく知っているのです。


その点でも、リンカーンが「私はすべての演説の用意の時間について、聴衆が何を聞きたいのか聴衆分析について三分の二、何を話したいのかに三分の一の時間を使う」と言ったのは、けだし名言です。聴衆が何を知りたいのかを考え、それに合わせながら自分の政策を書いて、演説の日はそれをわかりやすく伝え、かつ話ながら聴衆の反応を逐一つかんでいく。それぐらいの力量がないと、とても首相演説などやる資格はありません。


聴衆が何を聞きたがっているのかの理解がしっかりとでき、原稿がしっかりと頭に入ってはじめて、演説者は原稿から目線を上げて、聞き手のいるそれぞれの方向に視線を配っていくことができます。


この点の視線のデリバリーで、その政治家のベテラン度合い、また天賦の才能がはっきりとわかってくるわけです。ちなみにオバマ大統領は、大統領就任演説の一九分二十秒のあいだ、視線のセンターから右への左への振りの回数が、ピタリと均等でした。


これを見事にやってのけたのだが、日本版オバマ大統領・小泉純一郎氏です。聴衆のいる方向に顔の向きを変えるたびに、ライオンヘアが揺れ、そして、その行った先々の聴衆の視線を合わせる小泉氏。自分に視線が合わされたと感じた人は「キャッー」と声を上げたり、女性の「純ちゃん!」と言う掛け声が飛び交ったり、地方のサポーターであれば、自分の目を見て話が通じる政治家だというふうに感じて、後援会が盛り上がったわけです。


聞き手の心を把握するために、視線のデリバリーができることはとても大切です。原稿の丸読みをしているようでは、あるいは原稿のチラ見をしている人も、視線がそこに釘付けになっているあいだは、観衆にしっかりとアイコンタクトできません。それでは、聞き手はなかなか巻き込まれません。


その演説の基本を非常にはっかりと示してくれたのが、小泉純一郎氏だと言えます。