第2089冊目 ユマニチュード入門 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著)
- 作者: 本田美和子,ロゼットマレスコッティ,イヴジネスト
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2014/06/09
- メディア: 単行本
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- 正面から近づく
ケアを行うとき、「自分は正面から近づくよう心がけている」と言う方はたくさんおられると思います。でも、いつも顔が壁のほうを向いている人に対して、背中に向かって声をかけたことはありませんか? また、自分の前を歩いている人に対して、追い越しざまに声をかけたり、肩に手を置いたりして驚かれたことはありませんか?
認知機能が低下している人の場合、後ろから声をかけられてもうまく認識できないことがあります。気がつかないから声がけに対して反応できないのですが、反応がないと、ケアをする人はさらに近づいてさらに大きな声で声をかけてしまいがちです。
そうすると、本人は突然近くで大きな声をかけられたと感じて驚いてしまいます。驚く体験が度重なると不安がつのり、怒りの感情を抱きやすくなります。こうした理由から、認知機能が低下した人を驚かせない近づき方として、正面から近づくことが大切なのです。
- 視線をとらえる
次に、視線を合わせます。
相手の目をじっくり見ながら話すことに、なじみのない人もいるかもしれません。たしかにわたしたちは目が合わない相手に「わたしの目を見てください」とお願いすることは普通ありません。
でも、認知機能が低下した状態の人にしっかり視線を合わせ続けると、こちらの問いかけに対する相手の反応が変わります。認知機能のレベルに合わせて、目と目の距離、そして視線を合わせる時間の長さを調節する必要はあります。たとえば認知機能がかなり低下している人の場合、視線が合っているあいだは目の前の人に対して意識を集中しやすいようです。そのため、話しかけるあいだ中、視線をとらえ続けることが重要となります。視線をとらえ続けるために、自分の体の位置を変えることが必要になることもあります。
- 2秒以内に話しかける
目が合ったら2秒以内に話しかけるルールをあえて決めていることについて、「ふつう目があったらすぐに話すのは当たり前じゃないか」と思う人もいるかもしれません。
認知機能がある程度保たれている人とコミュニケーションをとる場合には、わたしたちは目が合ったらすぐに話しかけます。これはわたしたちは家族や友達とコミュニケーションをとるときと同じ行動です。
ところが、認知機能がかなり低下している人にユマニチュードの技術を用いてアプローチしたときに、こちらの言葉を理解していないと思っていた人が突然眼球を動かして視線を合わせてくれると、ケアをする人は驚きのあまり黙ってじっと見つめてしまうことがあります。そんなときには2秒以内に話しかけるというテクニックがあることをぜひ思い出してください。
- いきなりケアの話をしない
また、本人の同意を得られるまでは、ケア(仕事)の話はしません。ケアをする人は「○○さん、お風呂ですよ」「○○さん、お薬ですよ」と、近づいたらすぐにケア(仕事)のことを強調して話しかけがちです。
たしかにそれが最も伝えたいことではあるのですが、ケアを受ける人の立場からは、仕事(入浴介助や服薬介助)のために来ただけというメッセージを受け取って、また嫌なことをされると感じてしまう可能性があります。
このような事態を避けるために、この節の冒頭でも述べたように「○○さんに、お話をしに来ました。少しよろしいですか?」など、あなたに会いに来た「あなたと話したい」という、その人とのかかわりを求めて訪室したことを強調します。