第1170冊目  小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922) [新書]常井 健一 (著)


小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)

小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)


こんげ集まってくれて、わりいじゃ


公示日の一二月四日、朝九時。神奈川・京急横須賀中央駅前のペデストリアンデッキに、即席で設けられた演壇に立った進次郎氏の頬は引き締まっていた。楽勝ムードはおくびにも出さなかった。


「いま、私が高校球児だった時の気持ちを思い返しています。いまから約一五年前、私はアウトになるのがわかっていても一塁にヘッドスライディングをしよう、この一球にすべてを賭けよう、この一戦に自分の高校野球生活のすべてをかけよう、今日負けたら明日はない――その思いでした。


この戦いも同じです。この選挙で勝たなければ私に先はありません。みなさんの力が必要です。野球は集団スポーツで、一人のミスをみんながカバーしてくれます。(選挙も)野球と同じです。前回の選挙、そしてこの三年間、私の力不足を多くのみなさんが支えてくれました。私が起こしたミス、私が至らないところをみさなんが支えてくれて、今日の私を作ってくれました。目立たないかもしれないけれど犠牲バントをしてくれたみさなん、そして私がエラーした時に後ろでカバーに回ってくれたみなさんとの決勝戦がここです」


進次郎氏はよく高校野球を引き合いに出す。ひたむきや協調性、謙虚さを訴えるにはうってつけかもしれない。本人が高校球児だっただけに、説得力はさらに増す。


壇上から三メートル離れた最前列では、子育て世代の女性陣が腕をいっぱいまで突き出している。たった七分間の地元第一声の間、携帯電話から響くシャッター音が、決意表明に何度も重なった。


「あそこにも、垂れ幕みたいなものを作って来てくれた方がいます。前回の選挙でああいうこと(自民党の大敗、政権交代)が起きたとき、(垂れ幕に)書かれているのは間違いなく文句や野次でした。そう思うと、本当にみさなんへ感謝の気持ちに耐えません」


三〇歳前後の男性二人組の一人が、進次郎氏のナイロン地のジャケットを見つめながら、こう囁いた。


「あれ、パタゴニアじゃね?」


パタゴニアは米国カリフォルニアの高級アウトドアブランドである。進次郎氏のこんな細部にまで、聴衆は目を配る。だが後日、それはユニクロだと判明した。


演説後、都内に向かい、スーパーあずさ一五号で甲府入り。途中、若者に人気のあるウール地のダウンに替えた。ややカジュアルだが、着崩れないシルエット。インナーは白シャツで合わせ、ジャケットからノーネクタイで開いた襟元をのぞかせる着こなしが、全国行脚のユニフォームとなった。