第1157冊目  小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922) [新書]常井 健一 (著)


小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)

小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)


村上春樹好き


はからずも、進次郎氏が「反面教師」を演じてしまったこともある。


「本会議場でメールを打つのは気をつけたほうがいい。真上からカメラが狙っていえる場合がありますから」


そう言った直後の四月上旬、本会議場で立川談四楼が書いた立川談志の評伝『談氏が死んだ』を熟読する姿が、週刊誌のグラビアページに載ってしまった。後日、昼食会で進次郎氏はそれを逆手にとって、ジョークにした。


「今日の衆議院会議は三時間ありますけれども、集中力を持って最後まで臨みたいと思います。村上春樹先生の本が出て、それを読みたいとという気持ちもわかりますが、私のように落語の本を読んでいるとか上から撮られてバレますから、気を付けたほうがいいですよ」


新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発売された日のことである。村上春樹作品が好きな進次郎氏は、その新作を発売一〇日後には読了していた。


四月二六日、報道各社による週一回のぶら下がり取材の際に、筆者が感想を感想を尋ねると、それまで靖国参拝憲法改正の質問に難しい表情で答えていた進次郎氏が、相好を崩して興奮気味に語り始めた。


――村上春樹氏の新作を読み終えたほうですね。


「読み進めるうちに、『ノルウェイの森』のような救いのない展開になりそうな節があったけど、そうならなくて良かった、と思いました。読み終わった後に、最後に出てくるセリフとその数ページ前のセリフと、もう一度自分の頭の中で結びつける作業をしましたね。読み終わった仲間たち何人かと意見交換しましたけど、男女によって、感想が違いますね。お酒飲みながら語りたいなと思います」


――(お気に入りの一冊である)朝井リョウ氏の『何者』よりも読み応えがありましたか。


「あれとは別物ですからね。あれは今の若者の話ですけど、村上春樹さんの作品は、独特の、現実の世界から異次元の世界に旅立たせてくれるというかね。さっき本会議場で、僕が時々本を交換する大島(理森・党復興加速化本部)本部長に、『進チャン、ゴールデンウィーク村上春樹さんは読みますか?』と聞いたら、『ワシはねえ……(村上春樹は)わからん!』って。アハハ。『いやーそれわかりますよ』と。あれは多分、(好みに)合う合わないが、分かれるのでしょうね。僕は楽しませてもらいました」


――ゴールデンウィークにロンドンに行く飛行機の中では何を読みますか。


「大島本部長にもらった八〇〇ページぐらいの本をまだ読んでいないだよなあ。それを消化しなければならないと思っています。政治の本じゃないけど、本当の大作です。いつかやっつけようかなという本なので、読んでみようと思っています」


睡眠時間を削ってでも本を読む。読書家の進次郎氏。派閥政治を批判する一方で、読書を通じて派閥の領袖である大島氏との親交も忘れない。訪英に向けて出発する前日の四月三〇日夕方、進次郎氏のカバン持ちをしている若い秘書が、参議議員宿舎の近くになるTSUTAYAに駆け込む姿があった。その秘書は書棚を物色していた。


派閥のボスにオススメする次の一冊は見つかったのだろうか。