第1294冊目 小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922) [新書] 常井 健一 (著)


小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)

小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)


選挙演説が万葉集なら、お国言葉は枕詞


富山一区の自民新顔、田畑裕明氏の応援のため、一二月一三日午前一〇時二六分に、JR富山駅前に到着した。トヨタ・アルファードの後部座席から降りると、選挙カーのはしごをよじ上り、聴衆に手を振る。


移動距離の長さを考えると、前の晩からほとんど寝ていない計算になる。雪が掻け分けられた歩道に一五〇人ほどが集まった。筆者が数えてみると、最前列に並ぶ三八人のうち二人以外は女性で、みな手袋を外している。


「前回の総選挙で、自民党の新人で当選できたのは、全国で私と橘(慶一郎)先生とその他二人の四人だけ。私たちは本当に少ないけど、衆議院橘慶一郎小泉進次郎の一郎次郎コンビで田畑さんの応援に来たんです。何としても勝ちたいという決意の表れなんです。今までも田畑さんとは青年局の会議や懇親会など、いろんな場で話し合ってまいりました。今日たまたま通りかかったのが、鱒寿司のお店がいっぱい並んでいる所でした。外には新巻鮭が腹を割かれて、いっぱい吊してありましたが、この壇上にいる四人(司会役の野上浩太郎参議議員を含む)は、なんでも腹を割って話せる仲なんです」


本題に入る前、お得意の方言も披露していた。


「富山のみなさん、おはようございます。こーんな寒い中、でかいと来てもらって、気の毒なあ」


富山弁で「こんなに来ていただいてありがとうございます」という意味である。こうした方言は今回のために覚えたものばかりではない。総選挙中の遊説先は、参院選の応援や青年局活動で以外で訪れた所がほとんどだ。富山弁の出来栄えがよほど気になったようで、演説後、電話を待つ間、自民党関係者に感想を聞いていた。本人が「選挙演説が万葉集なら、お国言葉は枕詞ですから」と言うほどの入れ込みようである。


この日は、ワイシャツの上に薄手のダウン、そしてウール地のロングコートを重ね着した。二日前の東北行脚でも見られた寒冷地向けのファッションだ。ダウンをコートの下に着込むのは、ユニクロが「ウルトラライトダウン」(通常価格五九九〇円)を発売してからの若者のトレンドである。


電車に乗る間際に、県連関係者から昼食が差し入れされた。進次郎氏が触れた富山名物の鱒寿司である。クリーム色をしたレトロな車両の特急北越三号に持ち込んだ。右手には立山連峰、左手には日本海。次の新潟件長岡市まで二時間七分の小旅行である。


新幹線の新潟・JR長岡駅から小走りで一キロ先の長岡市役所前に向かった。次の移動まで許された滞在時間は二六分である。


「長岡にみなさん、こんにちは。こっげんさみいなか、いっぺえの人が集まってくれて、本当にありがとうございます」


ここでも長岡弁をまずは披露する。


新潟五区は田中角栄から娘・眞紀子氏が引き継いだ田中王国の本丸で、今回の総選挙で最も注目される激戦区の一つである。自民党からは元山古志村村長で、これまで衆院比例区単独で二回連続当選した長島忠美市が挑む・


時間がないため、長岡訛りの「枕詞」はほどほどにして、


「今日、私は長島先生を、どうしてもみなさんの力を押し上げていただきたいという思いで来ました。私がなぜ長島先生という男に惚れているのか。それをお話して、新幹線に飛び乗りたいと思います」


と切り出した。プレゼン能力が重視される欧米では、「これから何を話すのか」を冒頭ではっきり示す。進次郎氏も同様に、「もう民主党批判はしません。理由は二つ」といった構成を多用してきた。最初にそう言われれば、聴衆は心のノートに「①……、②……」とまとめやすい。「最後にこの話をして終わります」と断れば、それに続く話は聞き逃すまいと、心の準備ができる。


米国のコロンビア大学戦略国際問題研究所CSIS)で学識を学んだ進次郎の経験がにじみ出るプレゼン技巧なのだろう。


「政治家とは言葉が命であって、武器であるから、当たり前のように使っている言葉がどう伝わるか、敏感に、ものすごく繊細に扱わないといけない。そこに思いがいたらない時もあって、バッと言っちゃう時があるかもしれないけど、長島先生はそのひとつの言葉の使われ方、またそれがどう伝わるかを考えてきました。あの中越地震の経験があるから、この町の皆さんがどれだけ復興に努力して苦難の道を乗り越えたかをわかっているから、私は東日本大震災の復興への取り組みを続ける中で、常に長島先生の言葉を自分の心に留めて、言葉により気をつけなければいけない。そう思うようになりました。これからもその気持ちは変わりません」