第1142冊目  小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922) [新書]常井 健一 (著)


小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)

小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)


人気があると言われるのは、実力がないからです


テレビのワイドショーでは、「小泉進次郎は一度会った人の顔を忘れない」という話がよく使われる。真偽は定かではないが、地元横須賀で開かれた女性のつどいでは、思い出話をしながら女性支援者を一人ひとり指差していった。


「街中でビラを受け取ってもらえない中、笑顔で会釈をしてくれて、マンションやアパートのベランダに出て手を振ってくれた方々。ハイ。一軒家の玄関をガラーっと開けて、私(車で)走っていますから、追いつくわけないのに、玄関から走り出して、私の車が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた方。こちらです、ハイ。あのローソンの前ですよね。本当にこういう光景一つ一つが、今日お顔を見てね、今でも焼きついている」(一二月一日)


毎月恒例の自民党青年局の被災地視察でも、メディアによる「伝説」は量産される。


一三年一月一一日、岩手県大船渡市の仮設住宅を訪れた時のことだ。進次郎氏は集会所に入るなり、目に付いた子どもを抱き上げた。それを見る母親が言う。


「以前お会いした時は0歳だったけど、二歳になりました」


母親が見せる携帯電話の画面には、進次郎氏がその子を抱き上げる二年前の写真が表示されている。進次郎氏はこう言って子供をあやす。


「二年前だ。覚えてくれていたんだ。まさか、あの時、抱っこした子だったなんてねえ」


この日、陸前高田市でも同じようなことがあった。


車を降りて集会所の入口まで土手を上る間、八〇代の女性が「すんずろうさん」と言って、いきなり抱きついてきた。以前訪れた時に会話を交わした女性のようで、進次郎氏は抱き寄せながら、笑う。そして、親しげに話し込む。そこに集まった五〇人ほどを前に切り出した。


「みなさま、改めて、あけましておめでおとうございます。先ほどおばあちゃんから改名していただきました、小泉すんずろうです」


この女性はとても懐かしそうに再会を喜んでいたが、進次郎氏が覚えていたかどうかは定かではない。それでも、こうした女性に取材すれば、「前に会ったことを覚えていた」という伝説が生まれることになるのだ。


もっとも、よくよく見ていると、声をかけてくる側から「二年前に会った」などの情報を出している。訪ねた場所や時期が分かれば、漠然とした記憶を辿るのも、そんなに難しくないのかもしれない。


人が人を呼び、追いかけるメディアがどんどん増えていく。筆者が密着しはじめた当初は、テレビカメラは一つもなく、記者らしき取り巻きも見当たらなかったが、選挙が終わる頃には進次郎を二層、三層に取り囲むほどにまで人数が膨れ上がった。


彼はメディアに自ら出ないことを信条としているが、本人が意図しないところで「進次郎現象」が作られていくのだ。そして、メディアの質問は、人気や容姿など政治とは関係のない方向に脱線していく。


メディアから人気の秘訣について聞かれるのは、もうウンザリという印象だ。一月一一日に岩手を訪れた際も、ぶら下がり取材で「大変な人気ですね?」という質問に、


「みんな以前会ったことのある人だから、それか、私と会ったことがある人から聞いたことがあるから、初めての人でも歓迎してくれるんですよ。こうやって足を運んでくださっているのだから結果出さないとね。今は形がないから。人気があると言われるのは実力がないから。中身が伴わないからでs。


と答え、別の記者から同様の質問が続くのを振り切って、被災者が集まって記念撮影を待っている方に歩を進めた。特に被災地への訪問には使命感を持っているだけに、人気に焦点が当たるのは心外な様子が窺えた。