第1141冊目  上達の法則 効率のよい努力を科学する (PHP新書) 岡本 浩一 (著)


上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)


反復練習をする


得意がいくつかでき、その得意を中核とした鳥瞰的認知が形成され、広域的知識にまで関心がおよぶこの段階になると、得意を形成していた初期の頃のような反復練習がついおろそかになる。この時点で、毎回短い時間でもよいから反復練習の機会を設けることが有効である。


初期の反復練習は、鳥瞰的理解がまだない状態での反復練習だった。言ってみれば、新しい技能として得意を獲得する過程での反復練習だったわけである。鳥瞰的理解が得られ、ある程度コード化やコードシステムが習得された後の反復は質的にもっとも豊かなものとなる。


この時期まで来て反復練習をすると、あたらな発見をするような新鮮な感動が得られることがある。初期の反復は、技能に関する記憶事象の検索インデックスが少数であったため、いわゆる単純な作業であった。ところが、コードが豊かになったこの時点では、ひとつの記憶事象に関連して想起されることの豊かさが10倍くらいにも増大している。そのため、反復しながらも、いま反復していることと類縁関係のある多くの事象を思い浮かべているのである。


そのため、得意を最初につくったときのような反復練習をすると、いったんおなじみになっているはずのことがらに、新しくさまざまな意味が付与されて知覚されるので、それが新鮮な感動を生むのである。


しかも初期の反復練習の効果があって、この段階での反復は、あまり大きな集中力なしに、ほぼ自動的にできるから、類縁関係のある事象を思い浮かべていることが、あまり障害にならない。反復しながら、類縁関係のある事象を思い浮かべるプロセスによって、創造性のある思考が芽生えることすらあるのである。


まとめよう。ここでの反復練習は、自分のコードシステムをチェックし、強化し、類縁関係の連想を豊かにし、全体としてのコードシステムを豊かなものにするのに役に立つ。それとともに、自動化されている自分の技能への自信を確認し、ワーキングメモリの処理能力の増大にもたらすことになるのである。