第1177冊目  小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922) [新書]常井 健一 (著)


小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)

小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 922)


メモ魔


被災地での進次郎氏はメモ魔でもある。


十三年一月十一日、陸前高田市役所の仮庁舎を訪れ、戸羽太市長の、


「まずはスピードなんです。二年経とうとしている状況で、現地を見ていただいたらわかるように、まだこんな状態かと被災者の気持ちをへし曲げてしまっている。とにかくスピードを早めるために何をどうすればいいのかという観点で考えていただきたい」


という挨拶を聞きながら、目の前の資料の余白に赤いペンで「スピードが第一!」と書いた。進次郎氏はいつも、一〇〇円ぐらいのサインペンで資料を真っ赤にしている。


大船渡市内の仮設住宅では、被災者から次々と意見が出された。


市営住宅公営住宅、まだ全然建っていないんですよ。先が見えないんです」


「高台移転ができるほどお金持っている人ばかりじゃない」


「家を建てようと銀行に相談に行っても、その年齢ではこれだけしか貸せないと言われる」


「かき上げがまだ九年かかるなんて、それまでみんな死んでしまいますよ」


仮設住宅の名簿を作るにしても個人情報の規制が厳しくて」


立ったまま訴えが聞きながら、手元は動いている。


「若い人の意見を聞きたい」


開始から約四〇分間、年配の住民の発言が続く中、司会役の進次郎氏は若い参加者に話を振った。


「奧にいる私と同年代ぐらいの人、これからの自分の街についてなにかありませんか」


すると、ワックスで前髪をツンと立てた男性が、体を前に起こして語り始めた。


男性「やっぱり若い人がいなんで、みんな外に出てしまって」


進次郎「自分の友達とか周りの人とか」


男性「そうですね。三陸を離れて盛岡の方に行っちゃって」


進次郎「やっぱり、それはお仕事のために」


男性「仕事のためですね」


進次郎「ご自分は今」


男性「地元にいます」


進次郎「寂しいですね」


男性「寂しいっすね」


男性の目を見つめ、何度もうなずく、終了後、報道陣から印象的だった意見を聞かれると、さっきを男性を例に出した。


「私と同年代の男性が今日の対話集会に参加してくれて、若い世代が街を出て行ってしまう不安を言っていました。ホントに切実だと思うんですよ。復興を成し遂げるまでに八年から一〇年かかりますが、その後に生きていく人もいるわけですから、そういう人たちがこの町で頑張っていけるように後押しをしなくてはいけない。そういうところを真剣に考えていかねばならないと思います」


被災地で意見交換を行うのは、当事者の声を国政に反映するためだけではない。被災者に語りにくいことを語ってもらうことで、物事が前進すると信じているからでもあるのだろう。復興支援をテーマに全国の青年団体が集まるイベントで、進次郎氏はこう述べた。


「最初に誰かがタブー的なものをバーンと打ち破れば、次から次に意見が出るようになる。そういうことが、大事だと思うんです。この復興に関して言うと、けっこうタブーは多いです。どうやって自立の方向を作っていくかということも、すごく言葉を選ばなきゃいけないし、それぞれの状況が違う中で、どうやって(被災者を)前向き(な気持ち)にするかも課題です。どこに住んでいるか、今の立場はどうか、それによって、ひとつの政策に対しても、真っ向からぶつかる意見が出てきます。それでもある一定の決断をしないと、物事は何も進みません。