第897冊目 上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書) [新書]岡本 浩一 (著)
- 作者: 岡本浩一
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2002/05/01
- メディア: 新書
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深い模倣や暗唱をする
模倣は学習の基本である。最近の教育の風潮は、模倣を軽視してきたが、誤った風潮だと私は考えている。
『声に出して読みたい日本語』『「できる人はどこがちがうのか』の著者として名高い斎藤孝氏も、生きる力のもっとも大切な力として「段取り力」「コメント力」と並べて「まねる力」をあげれおられる。
精密トレーニングのひとつの手法として、深い模倣をすることが有効である。
文章に上達する方法として、昔から写文が有効だと言われている。夏目漱石を学ぼうと思えば、万年筆で原稿用紙に「草枕」の有名な冒頭などを書き写してみるのである。書く速度でゆっくりを文を味わってみると、読んだいたときには気づかないいろいろな文章上の苦心に気づく。わずか三十分書き写してみただけで、目から鱗が落ちる思いをするはずである。たくさん書写すると、ああ、ここで漱石は一度休みをとったな、とか、ここで日が改まったのではないかなどということがおぼろけながら想像できるようになる。そしてその想像がだんだんはっきりしてくる頃、漱石の思考のリズムとでもいうべきものが身についてくるのである。不思議なことに、同じものを書写した人どうしがこういう話をすると、ここで休みをとったと想像する箇所がずいぶん類似しているものなのである。
時間がなければ、ワープロで写してもよいと思う。あるいは、声に出して読んでも、黙読するのとは全然違うという人が多い。とにかく、ある程度時間をかけて、ひとつの作品、ひとりの作者とじっくり取り組んでみるのである。
好きな写真家が、ある特定の寺で撮った連作をみつけたら、同じ寺に自分も行ってみる。そして、その写真家がカメラを据えた場所とアングルをみつけてそこに立ってみる。そういうことをしてみると、こんなところに目をつけるのはすごいなあ、などと実感できる部分が出てくる。その実感が自分の技量を伸ばしてくれる。
この暗唱訓練では、可能な限り、模倣しよう、覚えようとすることが大切である。一度経験すれば納得できるが、覚えようと努力することから派生するさまざまなメリットがある。
暗唱することで、コードそのものが増加するということはあまりない。けれども、きちんと模倣し、暗唱するという圧力をかけることによって、コードのシステムが重層構造になり、システムそのものが豊潤化するということがある。コードシステムが発達しなければ、一チャンクに入れられる情報量の増大がはかれず、ひとつの演技を最後まで覚えきることができないからである。そのことが、情報処理能力を豊かにし、感性を豊かにしてくれるのである。