第886冊目  人の心をひらく技術 [単行本(ソフトカバー)]小松成美 (著)

人の心をひらく技術

人の心をひらく技術

相手にあわせて臨機応変

自分の思いを伝えるとき、話すこと以上に聞くことが重要だと述べました。聞くことと話すことの比率を数字に表せば、8対2です。それほど、聞くことに比重を置いて、私は人に向き合っています。

インタビュアーというと、答えを導き出すための質問の発し方に専門技術を持っている、つまり「話す」ことがプロだと思う方が多いかもしれません。けれども、むしろ「聞く」ことに細心の注意を払います。

まずは、相手はどんな言葉を選んで話しているかを注意深く聞きます。たとえばきちんとした丁寧語、尊敬語、謙譲語を使い分けて話す人なら、その人が折り目正しい大人だということがわかると同時に、聞き手である私と一定の距離感を持とうとする意図を汲み取らなくてはなりません。

年齢の問題もありますが、仮に同年齢の人が私に対してきちんとした敬語を使っていたら、その人は一気に相手に飛び込むタイプではなく、順序立てて距離を詰めていこうとするタイプだとわかります。

一方、初対面でも「私たちこんなふうにこの場で出会ったんて、運命ですよね」というふうに話してくる人もいます。このタイプの人は親しげな言葉を使うことで相手の心に飛び込み、一気にお互いの距離を縮めてようとしているのだと想像できます。

まず、相手の言葉をよく聞いて、相手の価値観とか望んでいる対話の方法を見きわめることが大事です。それがわかると適切な対処法が見えてきます。

きちんとした敬語を使って話す人に、「そうだね、いいんじゃない?」とは絶対に言えません。「そうですね、おっしゃるとおりです。私もそう思っております」といった言葉でコミュニケーションを取るのがマナーですし、その人が保ちたいと思っている距離感に応える気づかいになります。

逆に、フレンドリーに会話を交わそうとする人に、かたくなに敬語を使い続けたら、相手のせっかくのアプローチを拒絶することになります。

前にも述べたとおり、「人にはマナーを尽くす」が基本ですが、具体的な会話のやりとりについては、相手次第でもっとも適切な形に変えなければなりません。そのフレキシビリティも大切です。

そんな能力は持っていない、とあきらめないでください。それは、注意深く「聞く」ことによって可能になります。相手が今どんな考え方でこの場所に望んでいるのか。自分や他の人に、どんなメッセージを発しようとしているのか、それがどんな性質のものなのか、どれくらいの強さのものなのか――。静かな気持ちで耳を澄ませて「聞く」ことで、それはきちんと察知することができるはずです。