第2306冊目 入社1年目の教科書 岩瀬 大輔 (著)


入社1年目の教科書

入社1年目の教科書

  • 相手との距離感を誤るな


中途入社が増え、雇用形態が多様化している現代の組織では、立場と年齢が逆転するケースが増えています。そうした状況の中、言葉遣いをどうすればいいのかわからないという話をよく耳にします。


僕は、比較的年功序列の考え方で自分の行動を決定しています。年齢が自分より上の人には、無条件で敬意を払うようにしています。たまたま会社の立場が上だからといって、自分より年上の人に偉そうな口をきいている人間を見ると、正直気分は良くありません。


ライフネット生命で僕は上のほうにいますが、常に実践しているルールがあります。学年が一つでも上の人には、必ず敬語を使います。敬称もさんづけです。学年が同じ人の場合は、敬語を使うか使わないかはその時々で変わりますが、決して名前を呼び捨てにすることはありません。


その代わり、僕が生まれたのは76年3月なのですが、同級生には丁寧語を使う代わりに、たった1ヵ月しか違わない76年4月生まれの人は年下扱いをしています(笑)。


その一方で、社外の人には年下でも敬意を払います。


ソーシャル・ネットワーキング・サービスのグリーを率いる田中良和社長と懇意にしているのですが、学年でいうと彼は僕の2年下です。親しくしているのですが、僕は決して「田中くん」とは呼びません。優れた実績を上げている経営者として敬意を持って、会話でも敬語を使うことを心掛けています。


彼も僕を「岩瀬さん」と呼んでくれています。あそこまで大成功を収めると、友人になったら「タメ語」になる人が多い中、敬語を使う姿勢をいまだに崩していません。


僕が苦手なのは、初対面やそれほどよく知りもしない段階で、年齢だけを基準にして無条件に偉そうにする人です。社会の中では僕はまだまだ若い部類ですから、年上の方とのおつき合いのほうが多い。だからと言って初対面で、「いや、岩瀬クンはさあ〜」と言われるのは、知らない人にはやはり丁寧に接すべきだと思います。


会話以外で相手との距離感に気をつけるべき場面は、メールでの敬称です。若い人にありがちなのは、社外の年齢や立場が上の人と仲良くなったり、可愛がってもらうと、相手と接近したと勘違いしてしまうことです。


学生向けの講演会に呼ばれ、講演のあとの飲み会で仲良くなった学生から、こんなお礼のメールが届きました。


「岩瀬さん、昨日はありがとうございました。また飲み会に連れていってください!」


そのメールの返事に、僕はこう書きました。


「○○様、昨日はお疲れ様でした」


よそよそしいと思いますか? 社会人の礼儀として、仕事上のつき合いの関係では、一定の距離感を持って接することが望ましいとされています。もちろん、相手に悪気がないことはわかっています。しかし、若い人は勝手に仲良くなったと勘違いし、つい近寄り過ぎる傾向があるようです。僕が「○○様」とメールを返したことで、学生はその距離感に気づいたと思います。


相手との距離感を誤らないようにしてください。若い人にとっては苦手なところかもしれないので、仲良くなっても距離感は少し遠めにしておいたほうが無難かもしれません。