第738冊目 人を動かす秘密のことば なぜあの人は心をつかむのが上手いのか 前田知洋/著

人を動かす秘密のことば

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目次


1 言葉の量を考える
2 言葉を隠すテクニック
3 秘密の力、パラ・ランゲージ
4 言葉遣いと服装も大事な要素
5 相手との距離を縮めるサイン・ランゲージ
6 上手に秘密を隠すためには?


立場が弱いから丁寧?


私は、マジックの仕事でも、プライベートでも、友人や家族との会話を除いて、できる限り丁寧な言葉を使います。ほとんどの場面では、丁寧な言葉を使うことのメリットのほうが大きく、とても気に入っています。けれど、ときどき興味深い経験をすることをあります。丁寧な言葉を使うことが、相手に「立場が弱いから」と誤解されてしまうことです。


たとえば、人と待ち合わせをしたり食事をしようと、ホテルなどを利用するときに、駐車場などで「ホテルへの出入り口はどこにありまか?」と警備員にたずねることがあります。そうるうと、たまに、相手からブッキラボウな答えが返ってきてビックリします。


私は長い間、警備の人はそんなふうに話すもの、と思っていましたがどうやら違う理由があることに気がつきました。そういった人の中は、丁寧に話しかけられると「そんなふうに話すのは、たぶん、ホテルの客ではなくて、出入り業者に違いない。お客様なら、もっと偉そうにしているはずだ。お客様でないのなら、そんやヤツに丁寧な言葉を使うのはもったいない」という思いがあるのかもしれません。これは、私の勝手な想像なので、確信はありませんし、すべての警備員がそんな口調でもありません。しかし、周囲を見回しても、相手の立場によって態度を変える人はそれほどめずらしくありませんので、そんなにズレれはにないと思っています。


その不遜と思われがちな駐車場の警備員の考え方は、あながち間違いではないと思います。なぜなら、相手によって態度を変えるのは、複雑な社会においては合理的な行為だからです。たとえば、子供に対しては、子供の将来を考えた接し方、大人とは違った話し方があるようにです。顧客に対しての場合と、仲間に対しての場合と、内容や話し方が違うのは当たり前のことです。


駐車場の警備員が間違ったのは、その思考のしかたではなく、「客であるなら、丁寧な言葉を使うわけがない」という部分にあります。客であったとしても、丁寧な言葉を使う理由が存在するからです。


丁寧な言葉の効用のひとつに、「相手との距離を保つことができる」ということがあります。上下の関係ではなく、「あなたとは距離がありますので、お互いの立ち位置から踏み出さないようにしましょう」という意味を無意識のうちに伝えます。


こんな失敗をしたことがあります。その日は、早朝から夜までテレビの特番の撮影がありました。撮影が終わり、収録の成功を祝って、ビールでも飲もうと親しい先輩マジシャンに電話をしました。一日中、マジシャンとして丁寧な言葉を使っていたので、思わず「マジシャンの前田知洋と申しますが、いつもお世話になっております。お忙しいところすみませんが……」と話し始めました。相手は「ね、ね、前田君、かける相手を間違っていない?」と戸惑っています。丁寧に挨拶をしすぎたための距離感から、間違った番号にかけているのではないかと誤解したのです。


そういわれて、ハッとして、メイクもそのままで、マジシャンとしての衣装をまだ着替えていないことや、一日中撮影をしていたことなどを相手に伝え、笑い話になりましたが、言葉の使い方が距離間を表現することの失敗談として、とてもよく覚えています。


それでも、丁寧な言葉はお互いの距離間がわかりずらい現代では、自分の立ち位置を知らせるなど、多くのメリットがあります。


あなたに、すべての良きことが、なだれのごとく起きますように♪




今日の声に出したい言葉


「言葉が気持ちを隠すものなら、仕草はそれを明かすものだ」――ジョン・ネイピア

 

編集後記




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