第326冊目 古代への情熱 シュリーマン自伝 改版 /シュリーマン/著 村田数之亮/訳

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)


このうえ私はミナに値することを示そうと願望を抱いていたが、これは私に不屈の勇気をさましまた育てた。そこで私は異常な熱心をもって英語の学習に専念したが、このときの緊急切迫した境遇から、私はあらゆる言語の習得を容易にする一方法を発見した。


このかんたんな方法とはまずつぎのことにある。非常に多く音読すること、決して翻訳しないこと、毎日1時間をあてること、つねに興味ある対象について作文を書くこと、これを教師の指導によって訂正すること、前日直されたものを暗記して、つぎの時間に暗誦することである。


私の記憶力は少年時代からほとんど訓練しなかったから、弱かったけれども、私はあらゆる瞬間を勉学のために利用した。まった時を盗んだのである。できるだけ早く会話をものにするために、日曜日には英国教会の礼拝にいつも2回はかよって、説教を傾聴し、その一語一語を低く口まねした。


どのような使い走りにも、雨が降ってももちろん、一冊の本を手にとって、それから何かを暗記した。何も読まずに郵便局で待っていたことはなかった。こうして私はしだいに記憶力を強めて、3ヶ月後にははやくもわが教師テイラー氏とトンプソン氏の前で、いつもその授業時間は印刷された英語の散文20ページを、もしあらかじめ3回注意して通読していたならば、文字どおりに暗誦することができた。


この方法によって私はゴールドスミスの『ウェイクフィールドの牧師』の全部とウォルター・スコットの『アイヴァンホー』とを暗記した。


過度の興奮のために私はごくわずかしか眠れないので、夜中にさめいているすべての時間を利用して、夕方に読んだことをもう一度そらでくり返した。記憶力は昼間より夜ははるかに集中するものであるから、私はこの夜中にくり返すことは最も効果があることを知った。


私はこのような方法をなんびとにも推薦する。このようにして私は半か年の間に英語の基礎的知識をわがものにすることができた。

1 少年時代と商人時代(一八二二‐六六)
2 最初のイタカ、ペロポネソス、トロヤ旅行(一八六八‐六九)
3 トロヤ(一八七一‐七三)
4 ミケネ(一八七四‐七八)
5 トロヤ、第二回と第三回発掘(一八七八‐八三)
6 ティリンス(一八八四‐八五)
7 晩年(一八八五‐九〇)
8 シュリーマン略年譜

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)

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