■
第3938冊目 介護リーダーの仕事と役割がわかる!
-事実を見極めるのは難しい
一般に会話の中には事実と私見が混じっています。私見とは、推測や思い込み、個人的な判断や感想のことです。たとえば、以下の言葉は事実といえるでしょうか。
電車の中はとても混んでいて、しかも蒸し暑かった
「とても混んでいる」「蒸し暑かった」は話し手の私見(個人的な判断)です。ただし、これを「電車の中は込んでいて座ることはできず、しかも空調が故障していてエアコンがついてませんでした」といえば、事実になります。
事実とは「実際にあった事柄で、検証が可能であり、誰も否定できないもの」で、先の例では「座ることができなかった」「エアコンがついていなかた」は事実になるのです。
次の例について、どちらが私見でどちらが事実か考えてみましょう。
①小林さんは、がんばって仕事をしていた
小林さんは、8時まで事務所に残っていた
②平成26年度介護保険制度改正では、地域包括ケアについて大きな推進がみられた
平成26年度介護保険制度改正では、「地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実」が掲げられた
①②ともに、上が私見で、下が事実です。
事実であるとわかりやすいのは、数字を伴った事実です。信頼できる機関が発表した数字は、否定できません。ただし、その数字を検証してみる必要があります。このように事実を見極めることは決して容易ではありません。
前ページのような日常会話であれば、話の内容が事実かどうかはさほど重要ではないかもしれませんが、介護の仕事の場面ではそうはいきません。事実に基づかないことをもとに何かを判断したり決定したりすると、あとで問題が起こる可能性があります。
リーダー自身が事実と私見を分けたり考えたり、話したり、書いたりする習慣をつけ、スタッフにも同じような習慣をつけてもらう必要があります。
ここで例を挙げてましょう。リーダーのところにスタッフがやってきて次のように言っています。
大変です! Sさん(利用者)がベッドから転落していました
上の報告は事実のようですが、実は少し違います。「ベッドから転落していた」というのは、スタッフが直接にその場面を見たのでなければ、推測つまり私見です。ではここから事実だけを取り出すとどうなるでしょう。
14時に、Sさんがベッドで横になっていた
16時には、Sさんはベッドのそばの床に横たわっていた
これは事実です。そこから考えられることは、Sさんは転落したのかもしれないし、誰かに落とされたのかもしれません。ほかにも何か考えられることがあるかもしれません。いずれにしてもこの事実に着目し、転落した場合、落とされた場合、それ以外の場合に分けて、それぞれの問題の原因を究明し、対策を立てなければならないのです。
次に挙げる文章は事実かそうでないかを考えてみましょう
①利用者のQさんは嘘つきで嫌われています
②うちの施設はいつも人手不足だから、スタッフは大変です
③パートのSさんは、ご主人の転勤で引っ越すため、退職します
④利用者のEさんは両足が弱いので車いす移乗は難しいです
⑤スタッフのRさんは残業ばかりしています
この5つのうち事実は③だけです。それ以外の文章には私見が含まれています。私見の部分は①「嘘つきで嫌われている」、②「いつも人手不足だからスタッフは大変」、④「車いす移乗は難しい」、⑤「残業ばかりしている」です。根拠が明確でなく、ほかの人に聞いたら、あるいはほかの人が実行したら、まったく別の答えになる可能性があるからです。②ならば人員の不足を人員換算で示す、⑤では月平均の残業時間を示すことで、事実を述べることができます。
リーダーは報告を受けたら、事実と私見を冷静に分けて考える習慣をつけましょう。「これはこうだったね」と要点を繰り返したり、「そのことは確認したの?」「なぜそう思うの?」などの質問をしたりするとよいしょう。