第3592冊目「権力」を握る人の法 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

 

 

 

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

-多面作戦を採る

 

 

エッサーマンは、カリフォルニア大学で自分の構想が暗礁に乗りあげたとき、学術研究と臨床の両方に力を入れ、全国的な評判を確立していった。たとえば国立ガン研究所のインフォマティクス・システム責任者との共同研究などを行っている。学界でのこうした成果や人脈は、大学での影響力の拡大につながる。また現場での治療も続けていたから、患者のネットワークも拡大していった。その中には途方もない資産家もいれば、経営者や芸能人もいる。こんなふうに、改革に行き詰まってもそこで立ち往生するのではなく、研究や治療に全国に尽くすことによって、自らの知識を増やし、全国レベルでも大学レベルでも評価を高め、また組織内外に人脈を拡げることができた。

 

 

他面作戦の有効性を物語る例として、インドのラリト・モディのケースも紹介しよう。モディは、世界で最も有力、かつ資金豊富なクリケット組織であるインド・クリケット協会の幹部であり、インド・プレミアリーグを発足させた人物である。裕福な家庭に生まれ育ったモディは、アメリカのデューク大学でスポーツ・マーケティングを学んだ後にインドに戻り、ディズニーと契約してライセンス処品を販売する事業を興した。だが、クリケット・リーグを立ち上げて有力スポーツ・チャンネルESPNで放映しようという彼の最初の企画は、クリケット協会の反対に遭ってあえなく潰されてしまう。そこでモディは作戦を変え、まずはスポーツに市場原理を持ち込もうと考えた。そしてディズニーやESPNといったアメリカ企業とのコネを使い、クリケット協会の専横をやせさせ自由な起業が認められるようになれば、スポーツ興行で収益を上げるチャンスが格段に増えると説いて回り、国内に味方を増やしていく。モディは途方もなく、辛抱強かった。一〇年以上かけて有力政治家とコネを築くなど人脈作りに力を注ぎ、クリケット協会で重要な地位に就く根回しを進めていったのである。