第3228冊目 負けてたまるか! 若者のための仕事論 丹羽 宇一郎 (著)
- 作者: 丹羽宇一郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/04/13
- メディア: 新書
- 購入: 4人 クリック: 36回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
- 顔に注視せよ
政治家にしても経営者にしても、自分が大勢の人に向かって何かを訴えようとするとき、とても大事なことがあります。それは「人生の証」ともいえる顔つき、たたずまい、あるいは聴衆に話すときの情熱、気力といったものです。話している内容などはじつは二の次で、会場を一歩出ればほとんどの人がそんなものを忘れてしまう。難しいことを延々と喋っても、聴衆が船を漕ぐのを促しているだけなのです。
若い人も、偉い人の話を聴いていて感じることがあるでしょう。すらすらと流暢に喋る人でも、聴いていて今一つ響くところがない。立派なことを言っていたことは覚えているんだけど、ハテ、何だったかな……。
これは、喋る側の人が、言葉だけで自分の考えを伝えようとしているからです。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンによると、をするときの印象は、五五パーセントがルックス、つまり見た目などの視覚情報が決めるそうです。三八パーセントが声の張りとか迫力などの聴覚情報。そして話の中身などの言語情報は、わずか七パーセントしかないといいます。
このうち半分以上を占めるルックス、これはもうどうしようもない。たとえば私が顔にいろいろなものを塗りたくって、そう変わるとは思いません。ありのままで壇上に上がるしかありません。残りの半分で勝負するしかないのです。
七パーセントを占める話の中身については、私はできるかぎりわかりやすく語りかけるようにしています。難しい内容を難しく喋るのはじつに簡単で、それでは喋っている本人も本当に理解しているかどうか疑わしいものです。
残りの三八パーセントの口調などの聴覚情報に表れる気力、迫力、たたずまい。これについては、じつはルックスと同じようにごまかしがききません。普段、何も考えていないような人が自分の部下が作った立派な原稿を読んだところで、にわかに迫力が増したりはしません。日々強く感じている自分の思いがあるから、それが気力、迫力となって聴いているほうの胸を打つのです。