第1270冊目 どうしたら「デキる男」に見えますか? - 印象戦略30のノウハウ (中公新書ラクレ) [新書] 岩井 結美子 (著)



「聴き上手」のポイントは何ですか?


皆さんは他人から受ける行為で最も嫌な気持ちを味わうのはどういったことでしょうか? 心理学では「ストローク」という行為があります。これは、人が他者を認める全ての行為のことを指します。あなたはここにいるのね、という関心や存在を認める行為ですので、ストロークが与えられない状態が「無視」や「無関心」ということになります。


私たち人間は、他者から存在を認めてもらいたい生き物であり、無視や無関心に対してひどく心を痛めます。存在が認めてもらえないくらいなら、叱られるほうがましだという心理的な欲求があり、この代表的な例に、小さい子供が弟や妹の誕生後に赤ちゃん返りをして親の関心を引く行為があります。叱られてでも親の関心を自分ものにしたいという無意識の表れです。子どもに限らず、私たち人間はこのストロークを必要とし、人間関係に強く求めています。


このストロークのない状態を、コミュニケーションの研究でロールプレイしてもらうことがあります。相手の話を聞きながら視線をわざとそらし、視線を合わせずにいてもらうという実習なのですが、話し手はとても話しづらかったと言います。テンションが下がる、話がつまらないのかとい焦る、ちゃんと聴いてくれていないようで腹が立つ、といった発言が主です。


私たちはこの「相手と目が合わない」という状態に不快な感情をいだきます。私も興奮気味に話している時、相手がテレビや時計に視線をやると、ムカッ! ときてしまい「聴いているの!?」とつっかかったりします。そんな経験、皆さんにもあるのではないでしょうか?


実は、そんな時は大抵その人は、ちゃんと聴いているものなのです。何を話したか確認すると「○○について話していたでしょ?」と覚えてくれていることがほとんどです。


しかし、どうも私たちは「聴いてくれているように見える」ことのほうが重要のようです。時間が気になって時計を見るだけで相手が嫌な印象を与えてしまっては残念です。本来は、人の話を聴く時はよそ見をしないのが鉄則ですが、どうしても気になる時は相手の話を切りのいいところおで「ちょっと失礼、時間を確認させていただきますね」と一言断りを入れるだけで誤解されずに済みますので取り入れてみてくださいね。


聴く時も、話す時も、この視線のやり場でかなり印象が違います。「目が泳ぐ」という状態で視線が定まらない人は落ち着きがなく挙動不審に見えることから、誠実さに欠けた印象を与えてしまいます。


また、資料にずっと目を落としながらの説明は全く心に届きません。政治家が終始読みながら声明文を公表しても説得力がないですし、気持ちが入っているようには見えないですよね。


しかし、選挙の時だけは何も見ずに、聴衆(国民)をしっかりと見て演説しています。自分の言いたいこと(政策や思想など)なのに紙を見なければ話せないという状態は、誰かが書いてものを伝えているだけのように感じられ、聴く気を失わせてしまうのです。ですから、選挙の時に、文章を見ながら演説する人は一人もいないはずです。


プレゼンテーションの研修の時、聴衆とほとんどアイコンタクトを取らず資料を見ながら話をすると、やはりただ「読んでいるだけ」に見えてしまい全く心に響かず、記憶にも留まりません。まるで私たち(聴衆)がそこにいないかのように一人で話しているのです。実際に聴衆からは、こちらに関心がない、聞いてもらいたいという意気込みが感じられない、独りよがりにしゃべっているように見える、というフィードバックが返ってきます。


話している内容が素晴らしくても、相手の「聴く気」のスイッチが押せなければ、相手はあなたの話に耳を傾けようとはしません。目が合った瞬間に「私(私たち)に向けて話している」というストロークが投げかれられるわけですから、関心の対象が自分であることが認識され、聴く気のスイッチが入ります。聴く気のスイッチをおすには、「相手を見る」ただそれだけで十分なのです。


では、どの辺りを、どのくらいの時期、見ればよいのでしょう。ジーッと見続けられても困りますし、逆に見続けるのもしんどいですよね。見たり外したりのタイミングがわからないと言った質問も良く受けます。


良く話を聴いてくれているという印象を与える、アイコンタクトの方法をアドバイスしますね。基本は、相手の「鼻」を見ます。目を凝らして見つめるのではなく、肩と目の力を抜いて見る感覚です。


そして、鼻を見続けるのではなく、時折違う場所に視線をもっていきます。人の話を聴く時は、相づちを入れますよね。「なるほど!」「へー!」「そうなんだ!」といった肯定的な反応を示す相づちを打つ時には相手の「目」を見てみましょう(これは、鏡で自分の顔でも練習できますので試してみてください。鏡の中の自分がものすごく話を聴いてくれているような好印象に見えます)。


「う〜ん……」「そうですかね……」といった否定的な反応を示す相づちの時には視線を相手の顔から外すと、メリハリのある自然な聴き上手アイコンタクトになります。


次に話し手になる時のアイコンタクトです。どこを見たらいいのかの前に、外していけない場面があります。

  1. 「です、ます」などの語尾(ニュースキャスターはここで必ず原稿から顔を上げます)
  2. 「ありがとうございました」「助かりました!」など、お礼や感謝の言葉を伝える時
  3. 「はじめまして」「お世話になります」「いらっしゃいませ」など、挨拶をする時
  4. 「お願いいたいます」「ご検討ください」など、お願いをする言葉を伝える時


上記の場面でアイコンタクトができていないと、気持ちがこもっていないように感じられ、暗い、やる気のない、不誠実な印象を与えてしまいますので要注意です。言い換えるなら、この1.から4.の時は、必ず相手の目を見て伝えるようにしましょう。


基本は、聴き手の時と同じようい肩や目の力を抜いて相手の「鼻」を見ながら話します。そして、「しかも!」「つまり」「要するに」「言いたいことは」「重要なのは」「私としては」「ぜひ」とつけるくらい、ここは聴いてもらいたい、強く訴えたい、という場面では、鼻ではなく「目」を見て話しましょう


こうすることで、力強さや自信に満ち溢れた印象を与えることができ、引き込み力が増します。


また、複数での商談やミーティングをする時は、満遍なく全員に視線を配ることが大切です。いくら、その中の一人だけがターゲットだとしても、その他の人を無視してはいけません。ターゲットにされた当人にも、自分ばかりに話をする姿は、周囲に気を配れていないという未熟な印象に映るものです。


複数に視線を配る時の注意点としては、チラッと横目で見る程度であったり、見渡すように視線を泳がすのではなく「これが私の考えです」「ぜひ、ご賛同願いたいのです」といったセンテンスの終わりである「です、ます」の時に、誰か一人の「鼻」もしくは「目」を見ると、堂々とした印象を与えることができます。


アイコンタクトなく話をしたり、聴いてたりするということは、あなたじゃなくてもいい、あなたに話したいんじゃない、というストロークのない交流となり、合い相手に強い不安や不信感を生じさせます。


私はあなたと交流したいのです、という積極的関心を示すためにも顔を上げて相手を見て話しましょう。