第3228冊目 負けてたまるか! 若者のための仕事論  丹羽 宇一郎 (著)


負けてたまるか! 若者のための仕事論 (朝日新書)

負けてたまるか! 若者のための仕事論 (朝日新書)

  • 人は自分の心の鏡である


私は本書で「間ゴマ」のすり方などというハウツーを皆さんにお話するつもりではありません。むしろここで私が言いたいのは、自分が「直ゴマ」をすれれば相手も「直ゴマ」をする。すなわち、人は自分の心の鏡であるということです。


上司の立場からすると、部下を育てるには三つの基本原則を押さえていればいいと私は考えています。それは「認めて、任せて、褒める」ということです。人間は誰だって自分の能力を認められ、責任ある仕事を任され、そして「よくやったな」と褒められれば嬉しいものです。この逆をやると、部下はあっという間にヤル気をなくしていまいます。


もっとも、あまりに大げさに褒められると、今度は褒められることを目的として仕事をするようになります。やってもいないのに「やっています」と言うようになり、下手すると、叱られたくないから粉飾決算でさえ正当化するようになってしまいます。たとえば本当は二億八〇〇〇万円の利益しか出していないのに、三億円の利益を出さないと叱れられる。そこで、無理してどこかで帳尻を合わせようとする。こんなところも、会社の不祥事の原因が沈んでいるのです。


したがって上司は、さりげなく褒めるようにしなければなりません。繰り返しになりますが、ゴマの風味は、ほのかに漂うからいいのです。


とはいえ上司も人間です。部下に慕われたいという気持ちがあるから、たいしたことでもないのに褒めて、「直ゴマ」をすってしまいがちです。すると相手も「直ゴマ」をすって、嘘八百のおべんちゃらばかりを並べるようになるわけです。


ゴマだけではありません。自分の心の動きというのは、相手は敏感に察知します。何となく苦手だと思っている相手がいるなら、その相手もきっとあなたのことをそう思っているはずです。「こついは無能だ」と思っているなら、相手もそれを見抜き、距離を置いてしまうものです。人間というのは、かくも敏感な生き物なのです。