第3587冊目「権力」を握る人の法 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

 

 

 

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

第四は、偏向的な同化作用である。後から受け取る情報を第一印象と一致するようにねじまげて解釈する傾向がある。あるとき劇作家兼コメディアンのチャーリー・バロンは、カリフォルニア医師会からスピーチをしてほしいと依頼された。医師会が期待していたのは、気の利いたコントといった体のものである。ところがバロンは、ホスト側と示し合わせて自分を「医学博士ハルビン・アブガー」と紹介させる。そして専門家ばかりの聴衆を相手にでったげの統計データを遣って、遺伝子に関する珍説を披露したものである。バロンがジョークを飛ばさなかったら、聴衆は彼のことをあやうく遺伝子の専門家だと信じ込むとろこだった。聴衆にしても途中で「どうもおかしい」とは思ったものの、「いやいや、自分は遺伝の専門家ではないから」とか「最新の研究ではそういうデータが出ているのだろう」と思い直していたという。もしバロンがコメディアンとして紹介されていたら、聴衆の反応はまったくちがったものになっていただろう。

 

 

人間がとる行動の多くは、見ようによってはどうとでもとれるものである。恋人を前にして「変わった人だが天才だ」と思うか、「社会的適応力が欠如したダメ人間だ」と思うかは、見方次第だ。相手の行動をどう解釈するかは、観察以前の期待や予想であらかた決まってしまう。これは、見たいものを見るという人間の性癖のためである。たとえば地位の高い人と対談をしたり講演を聴いたりした場合、「やっぱり威厳がある」とか「オーラを放っていた」といった印象を持ちやすい。こうして印象や評判は持続し、ますます強化される。したがって最初の段階で好ましい印象や評判を獲得することは、影響力や権力を手にする第一歩と言えよう。