第2765冊目 人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)  谷原 誠 (著)


人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

  • いい上司は、食べ物を与えず、食べ物を得る方法を与える


百獣の王、ライオンは、子を産むと、はじめは母乳を飲ませます。そして次第に肉を食べさせるようになります。そのために母親がサバンナで狩りをして、獲物を捕らえ、肉を裂き、子に食べさせます。しかし、ある程度成長してくると、狩りをさせるようになります。肉を直接与えるのではなく、自分で食べ物を得るようにさせるのです。そうしなければ、母ライオンが怪我をしたり、死んだりしたとき、子はエサを得ることができず、餓死してしまうからです。


子ライオンは、エサを与えれば空腹を満たすことができるので、一時的には満足します。しかし、そのようなことを続けていると、長い目で見ると、全く成長しないことになり、不幸だと言えるでしょう。


人間にも全く同じことが言えます。


人を育てるということは、どういうことでしょうか。衣食住を与えれば、人は生きてゆくことができます。すべてを与えておけば、本人は満足します。しかし、与える者(多くは親)に事故があったらどうなるのでしょうか。生きてゆく知識と知恵を得ておかなければ、やはり本人にとって不幸と言えるでしょう。「何でもできない人間にするには、全てを与えればよい」という言葉があります。全てを与えられると、何もできない人間になってしまうのです。ですから、人を育てようというときは、与えすぎてはいけません。自分で考え、自分で行動し、自分で獲得できるように育ててゆくことが必要なのです。


会社組織を考えてみましょう。社長を頂点をするピラミッド構造ができています。社長の方針により、全社員が動くことになります。上司が部下に対し、すべてを命じて、部下がこれに従って動けば、一応の成果を上げることができるでしょう。部下も自分で頭を使って考える必要はなく、ただ言われたことをやっておけばよいので精神的に楽でしょう。しかし、その部下が自分の部下を持つようになったらどうなるでしょうか。それまで上司の指示に従って業務を行うことしかしなかった者が、自分の判断で業務を行い、部下に対して適切な指示ができるでしょうか。とても無理な話です。


したがって親でも上司でもそうですが、人の上に立った者は、子や部下に対して食べ物を与えるだけではいけません。ライオンのように、食べ物を得る方法を教えなければならないのです。食べ物を得る方法を学ぶには、自分で考え、自分で工夫し、それに基づいて行動することが大切です。そのためには、本人の思考を誘発しなければなりません。


思考を誘発するには、質問をすることです。質問には、思考と答えを強制する機能があります。子に対し、部下に対し、適切な質問をするのです。そうすれば、その質問に答えるため、必死に考え、食べ物を得る方法を身につけることでしょう。それこそが上に立つ者の責任なのです。