第2767冊目 人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)  谷原 誠 (著)


人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)


もちろん指示命令も必要ですし、すべて質問で指示するわけではありません。適切に使い分けることが大切なのです。まず、単純な作業、応用を要しない作業、すでに経験がある等でわざわざ確認を取るまでもない作業の場合には、指示命令で必要最小限の指示をします。それ以外のきちんと理解が必要な業務に関しては、時間はかかるかもしれませんが、しっかり質問をすることにより、部下が理解をしているかどうか確認することが、結果的には正確かつ迅速な仕事をすることにつながります。


次に、上司には部下を育てる責任があります。なぜなら会社は永続することを予定しており、若い者が育って上司となり、また若い者を指導してゆくことが予定されているからです。また、上司といっても経験があるだけです。自分の経験など取るに足らないものだと思います。私は15年以上弁護士をしていますが、自分で知らないことの方が多くあります。部下からの提案に「そんな方法があったのか!」と驚くこともあります。おそらく今後、20年、30年と弁護士経験を積んだとしても、同じでしょう。


したがって、部下をしっかりと育て、部下の頭脳を借りて、上司の提案以上に優れた提案をさせることも大切です。


部下を育てるには、ディスカッションに十分時間を取る必要があります。


まず、業務の大まかな方向性と目指すべきところを説明します。その後で、こう質問します。


「君はどうすればよいと思う?」


そうすると、部下が答えます。不十分な答えの時もあるでしょう。そうしたら、その弱点を指摘するのです。


「そのやり方の場合、○○になったら、どうクリアするつもりだ?」


部下はクリアする方法を考えますが、無理だと思ったら、また他の方法を考えるでしょう。これを繰り返します。多くの上司はこの方法を採用しません。なぜなら、これは多くの時間を取られてしまい上司にとって苦痛だからです。しかし、自分の責任を自覚しましょう。上司には部下を育てる責任があるのです。


どうしても部下が適切な答えを言えない場合は、アイデアを示唆しましょう。


「こう考えてみたら、どうだろうか?」


そこからまた部下の思考が始まります。そして、自分で答えを見つけ出せるのです。


そのようなプロセスが、人を成長させます。自分で考え、自分で答えを出したことによって、人は成長するのです。


その過程では、上司は決して落ちつけてはいけません。部下の成長の手助けをする、という気持ちでいることが大切です。コーチングと同じ考え方です。


私の法律事務所には、私の部下の弁護士やスタッフが多数います。新人で入ってきたときは、教えることの方が多くあります。しかし、質問を使って指示をしていると、次第に指示することが減ってきます。部下が成長してくるからです。そうすると依頼者からの信頼も高まります。結果的に私の仕事が減るのです。部下が成長すれば、上司のやる仕事は減ります。結果的に自分のためにもなると信じ、質問を繰り返しましょう。