第2758冊目 人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)  谷原 誠 (著)


人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)

  • 意見を押しつけず、相手が動きたくなるような質問をする


私が20代の頃の話です。私は証拠から考えると、不利な訴訟を引き受けました。それでも、相手の弁護士が重要な証拠を見落としていたことにより、何とか挽回し、裁判所から和解勧告を受けました。この和解を蹴って証拠調べ手続きに移ってしまうと、不利になりそうな様相です。そこで、私は、依頼者に対して、「和解に応じるべきです」と説得しました。


ところが、依頼者は、頑として和解に応じません。「そんな弱気なことじゃ困ります。先生。がんばってください」


「そうじゃないんです。○○さん、和解に応じるべきなんですよ」


何度かそんなやりとりが続き、私は、やはり本人の意思に任せることにしました。経済的には和解の方が有利だとしても、後で後悔したら何の意味もありません。本人が納得するような解決を目指そう、そう考えて、依頼者に言いました。


「わかりました。では、判決で勝負しましょう。全力で勝てるようにがんばりますよ! ただし、リスクだけは説明させてください」


そう言って、私は今回の和解を蹴った場合のリスクを説明しました。その上で、「私は、あなたのご希望に沿った弁護活動を全力で行います。以上のリスクをご理解いただいた上で、和解を蹴って、判決手続きに移ってよろしいですか?」と質問しました。本当にそうするつもりでした。


すると、依頼者は、「やはり和解にしたいと思います。その方が私にとって得なようです」と言いました。先ほどまで、いくら説得しても首を振らなかった人がです。そして、そのまま和解が成立してしまったのです。


もちろん、当初依頼者が私の説得に耳を貸さなかったのは、私が全面的に信頼を得ていなかったことも原因だったでしょう。しかし、同時に、私は、そのとき感じました。人は、他人から意見を押しつけられるときは、ただそれに反発したいがために損得を度外視することがある、ということを。


このように、人は他人から押しつけられることは嫌いですが、自分で決めたことには従順に従います。意見を押しつけず、相手が動きたくなるような質問をしましょう。


同じように、人をその気にさせるためには、議論で相手に勝手はいけません。議論で勝っても相手の感情を動きません。感情が動かない限り、人はその気にならないのです。その意味でも、まずは相手の感情を動かす質問をする必要があるのです。