第2738冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 実社会での最初に日々


君は会社の研修プログラムにしたがって優れたガイダンスを受けるだろう。配属は販売部門になると思うので、会社の事業について学べるだけ学んでから、顧客を相手に君のセールスマンとしての技量を試すように。顧客のなかには君がこの地表で過ごした歳月よりも長いつきあいの人がいる。君は会社の事業についてあらゆることを知ると同時に、顧客や顧客になってくれそうな人について、握手するまえに、人間としての可能な限り知っておかなければならない。顧客から見れば、君に与えられる機会はただ一回、第一印象だけである。必ず下調べをして、好印象を与えること! さもなければ、少なくともその後二年間は努力しないと、その顧客の心をつかめないだろう。みじめなスタートとなる。


「沈黙は金なり」とある人は言った。そのとおりだと思う。君にも、入社したてのうちは、一オンス喋るには、一ポンド聴く、という比率を勧めたい。かつて私はあるセールスマンを採用しようとしたとき、本人がそれまでの仕事についての照会先としてあげた二、三の客筋から、そのやり口にぴったりの表現は「言葉の下痢」だと聞いて取り止めにしたことがある。教訓は単純で、「馬鹿をさらけだすよりは、黙っていて馬鹿だと思われるほうがましである」。物識りで、口数の少ない人はなかなか憎めない。客筋はとりわけ、そういう人を好む傾向がある」。


事務所を離れるときには、書類カバンのなかに会社の事業について全情報が入っているだけでなく、私たちが競争会社よりも優れた、はるかに優れたサービスを顧客に提供するこという確信に君の心も満ちていなければならない。サービスを売り込むことは仕事の半分でしかない。残りの半分は、とことんまで顧客のサービスに努めることである。さもなければ、サービス不足のために離れていく顧客の穴埋めをするために、絶えず新しい顧客を見つけなければならない。その効率の悪さ。(あまりの愚かさに父親は頭にくるだろう!)。売り込みも大切だが、損益計算書の帳尻に利益を付け加えるためにはサービスが肝心である。


顧客のサービスに努めるためには、当然、仕入れ先との関係も円満でなければならない。仕入れ先のなかには、あまりにもいいサービスをするので、その効率のよさに羨望を感じるところさえある。ほかの業者の値引きで誘われようと、力ずくで脅されようと、このような忠実な仕入れ先からは離れる気になれない。顧客のなかにも私たちに対して同じような気持ちをもってくれる人がいると思いたい。