第2737冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 惰性的な生き方には


君は登り坂で車を押すことが困難な仕事であるのに気づいているだろう。途中で休めないわけではないが、やりとげてしまわないと、たいていの場合、車はもとの坂の下まですべりおりてしまう。そうなれば、はじめからやり直さなければならない。それが仕事というもので、学問でも同じである。昨日いくら頑張っても、常にこつこつ続けなければ、君は勢いを失う。勢いがなくなると、君は仕事を終わらせる道からそれて、過去の努力を食い潰し始める。君の場合、仕事は大学を卒業することである。


いま君よりも一、二年若かったころの話だが、私は大学一年目のクラスに非常によくできる学生が何人かいたことを覚えている。私は彼らをどれほどうらやんだことだろう! 彼らがやすやすと良い成績を取っているかたわらで、私はよくやくB−を取るために、猛勉強をしなければならなかった。しかし、二年目には事情がすっかり変わっていた。まず、私はこのできる学生たちの何人かは、高校でよく勉強したおかげで勢いに乗っていることを知った。それでも二年目の終わりには、驚いたことに、クラスの約三分の一が脱落していた。落第した人、ただやめた人、容易な学科に移った人もいた。その多くが、はじめはできる学生だった。彼らはただ、高校こらもってきたすばらしい勢いを衰えさせてしまったのである。


彼らは一年目を気楽に過ごしてきたために、二年目も同じように過ごせると思った。甘く見たのである。現実に気づいたこときには遅すぎた人も何人かいた。学問の道に戻るためには勉強に専念しなければならないが、彼らにはもはや、自分を厳しく律する力は残っていなかっった。言いかえれば下向きの惰性を逆転することができなかったのである。


あと数年もすれば、君は人生が登り坂の戦いであることを知るだろう。ひとつの課題を完了したと思うとまもなく、つぎの課題が迫ってくる。着実に努力を重ねないならば、君の一生の失敗率は高くなるだろう。成功する人と、しない人とを分けるのはこの点である。


こういう自体に及んだとはいえ、君が最初の一年を漠然と過ごした形跡はない。しかし、君は、人生はときどき、川をカヌーで遡るような段階があることを忘れているらしい。流れに逆らっているときに漕ぐことをやめれば、たちまち下流に押し流される! 人生にも流れの上で休息をとるときいは、流れが避けて、注意深く場所を選ぶ。勉強の途中で休息をとるときにも同じである。


年に七カ月、真面目に勉強に励めというのは、無理な注文だろうか? もしそれが無理で、君がD−で卒業するとしたら、私たちの会社に入ったときには、不愉快なショックを受けるだろう。私たち十一カ月半の真面目な努力を要求し、どの部門でもAしか受け入れないからである。

もちろん、失業保険法には五カ月の休息期間の継続を許しているが、君ほどの資質をそなえた人が。遊んでお金をもらうことを喜び、いつまでも幸福でいられた例はない。