第2736冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 成功について


高校での私の成績は一年生で六〇点、二年生で六五点、三年生で七五点だった。それから大学に進んだが、君も知ってのとおり、頭が良かったからではない。地方からの進学希望者を優先する特別の制度があったからである。大学の最初の二年間の教育課程は、ずい分勉強したのに、あまりぱっとしなかい成績で修了した。たしかに頑張ったのだが、何を学んでも私はのみこみが遅かったからである。


それから私は最初の公認会計士試験に失敗した。信じられなかった! 私はぺしゃんこだった。六年間も大学で学んだことが全部無駄になったのだ! お終いだった! 翌年再試験を受けることを許されたときには、ほっとして、大きな吐息をついたことは言うまでもない。


私は一回目に失敗した理由を知ると、同じことを繰り返すまいと決心した。繰り返しはしなかった。難しい謎がわかったというのではない。努力が足りなかっただけである。それ以来、私は努力を続けている。


仕事や勉強の習慣はなかなかつきにくい。学びたいという自然の欲求が必要である。集中力を養うことも必要である。しかし何よりも、勤勉さが必要である。これらの好ましい、生産的な態度を身につけることは、九〇パーセントの人間にとって容易なはずだが、実際に身につける人は少ない。


もし君が、私のしたことはすべて成功したと思っているとしたら、君は人生の大半について、詳しいことを知らない。成功している人は終始、勝利への一本道を歩いているように見える。その道を歩き続けるために、敗北のたびに必要とされる粘り強さは傍目には見えない。うち負かされ、失敗し、落胆し、そして欲求不満に悩まされないで、相つぐ成功を収めた人を私は知らない。このような苦しい時期を乗り越えられるかどうかが、勝者と敗者を分ける。負けを恐れるあまり、競争に参加しようとさえしない人たちのことを、私は幾度話したことだろう。


人は失敗するたびに何かを学ぶ。なかには貴重な教訓を学ぶ失敗もある。一回目の公認会計士試験に落ちたことは、過去二五年間私の脳裏から去らなかった。その教訓は何か? 努力しなければならないということである。ほかに方法がないからである。精一杯の努力をすれば、たいていのことはかなえられる。しかし競争に勝つのは必ずしも動きの速い人ではない。勝つのは過去の競争から学んで、その教訓を活かす人である。


人は成功者のいまの姿だけを見がちである。彼らの長年の努力、失敗、欲求不満、そしてこれまでに遭遇し、克服してきた多くの困難は目に入らない。


前途に目標が見えれば、人はつねに、それに近づこうと努力する。だから、君が自分に定める目標は決定的な重要性をもつ。