第2359冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 称賛も妬みも引き寄せる磁石


周囲を引きつける魅力が増すにつれて、いつのまにか称賛と感嘆、そして妬みも引き寄せているだろう。チームが成功すれば、手柄は自然とあなたのものになる。上司の記憶に残るのはあなたの名前や功績であり、あなたの成功として広まる。もちろん、素晴らしいことだ。ただし、周りがあなたを妬みはじめると、喜んでばかりいられない。妬みは、少なくとも彼らに疎外感を覚えさせる。そして最悪の場合、あなたを妨害しようとするだろう。


そこで、カリスマの恩恵を相殺して嫉妬や恨みをなるべく抑えなければならない。選択肢は3つ。栄誉を拒絶する、栄誉を反映させる、栄誉を転換する、だ。


栄誉の拒絶とは、自分が受ける称賛を最小限にすることだ。自分の能力を卑下して、称賛大げさにしない。ただし、その反動はすでに説明したとおりで、自分を称賛してくれた人を否定することになり、彼らの気を悪くするかもしれない。


栄誉の反映とは、自分以外の人々の貢献を強調することだ。これは効果的なテクニックで、あなたが謙虚に見えるというおまけもついてくる。たとえば、「ありがとう! スーザンが資金計画をチェックして、ビルがグラフィックの魔法を起こしてくれたおかげだ」と言うだけでも効果がある。ただし、どんなに栄誉を反映しても、あなたの魅力と成功に妬みや恨みを抱く人はいるだろう。そういう場合は、さらに踏み込んで栄誉の転換が必要かもしれない。


私は大手国際銀行の経営陣のコーチングを依頼されたことがる。南西地域を統括する上級エグゼクティブのナンシーは、有能株として注目されていた。CEOはナンシーの同僚のケビン(銀行の古株の1人だ)に、彼のチームをナンシーのもとに派遣して、チームの運営を学び、彼女のベストプラクティスを見習ってはどうかと提案した。ナンシーはこの名誉ある機会を歓迎し、最大限の努力をしようと決めていた。しかし、研修に来た1人から、ケビンは今回の話が決まって以来、ナンシーの悪口を言っていたと聞かされた。


ナンシーは私に助言を求めた。私は彼女に、ケビンの立場になって、彼の今の心情を本気で想像してみようと言った。「あなたは銀行の古株だ。自分より10年も経験が浅い若造のもとに、自分のチームを派遣して学ばせろと指示された。いったいどんな気持ちになるだろうか?」


おそらくケビンは、自分がもはや成功者と見なされていないと感じただろう。少なくとも、自分より経験の浅い「成り上がり」にかなわない。不安にさいなまれ、自分が称賛も尊重もされていないと感じ、これらの否定的な感情を恨みというかたちでナンシーの成功に関連づけるかもしれない。


私はナンシーに、ケビンが彼女の成功を「自分の成功」でもあると思えれば、妬みや恨みを抱かないだろうと説明した。つまり、ケビンが成功に貢献していると思える方法を見つけて、彼に「当事者意識」を持たせるのだ。私はナンシーに、彼から学んだことや、彼が自分を鼓舞したと言える経験を思い出すようにすすめた。ナンシーは不満を漏らした。「どうして私がそんなことをしなければいけないのですか?」私は、やってみる価値は必ずあると答えた。


ナンシーは数分もど考えていたが、ようやくいくつか思い出した。「経営会議でアランが新しいシステムがいかに面倒かと不満を漏らしたことがあります。するとケビンが、それは既知のパラメーターとして受け入れて前に進んだほうがいいと励ましたんです。雰囲気をこわさない言い方をしたよ」


私はさらに、ベンジャミン・フランクライン効果について説明した。ナンシーがケビンに考えや意見を求め、それを評価していることを伝えれば、彼は自分が尊重されていると思えるだろう。後であたらめて、彼の考えや意見が与えた影響を伝えることもできる。