第2292目 (文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫) 三枝理枝子 (著)


(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

  • 物を置くときは恋人との別れのごとく


友人とレストランに行ったときのことです。


美味しいお食事をいただき、お腹も一杯になったので会計を頼みました。スタッフの方が丁寧に対応してくださり、サービスもよかったので、私たちは大変心地よい時間を過ごすことができ、満足していました。


ところが、テーブルでのチェックを終え、明細とカードを受け取ったとき、そのふるまいがあまりにぞんざいなのでとても驚いてしまいました。


「ありがとうございます」とカードと明細を手で受け取ろうとしたのですが、テーブルの上に無造作に置かれたのです。口では「お味はいかがでしたか。ありがとうございました」と丁寧に声かけしてくれているのですが、まるで投げるように、バサッと置いたのです。


その光景を見て、私たち二人は目を丸くしてしまいました。当人はまったく気がついていません、このたった一つの所作で、すべての心地よい気持ちが、一瞬にして消え失せてしまいました。


物を大事に扱わないその所作一つを見ただけで、本当は大事にされていないいのではないかと感じるものです。


お見送りも「ありがとうございました」と元気な声は聞こえましたが、視線を向けることも、お辞儀もありませんでした。扉を開けて外に出て、見えなく亡くまで見送りつづけてくれるお店とは大違いです。


私は二度とこのお店には足を運ばないでしょう。


その場を離れても心に残る人、お店に、人はまた来たいと思うからです。


物を置くとき、あるいは書類などを相手に手渡すとき、パッとすぐに手を離すのではなくて、心を残しながら離すと洗練されたふるまいに見えます。


たとえ一枚の紙を渡すときでも軽々しく扱ってはいけません。だらだらとではなく、機敏に動きながらも物を敬う気持ちを持ちながら、重々しく扱う所作にこそ美しさを感じるものです。