第2127冊目 「権力」を握る人の法則  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • ちょっとした手助けが実を結ぶ


仕事を手助けするのも、喜ばれる。とりわけ、おもしろみのない仕事、延々と続く単調な仕事を引き受けるのは、手始めとしては理想的である。たとえばフランク・スタントンがそうだった。スタントンはCBSの社長で放送業界のドンと呼ばれる人物だが、一九三五年にオハイオ州立大学の博士課程を出て二七歳でCBSに入社したとき、調査部に配属された。この部署はたった二人しかおらず、必然的に予算は乏しい。ただし、競争もないという利点があった。スタントンはここで七年間がんばった末に、調査担当副社長に指名されている。そのときには、調査部は一〇〇人の大所帯になっていた。しかもスタントンは、調査部以外にも広告、販促、PR、施設設備管理、ラジオ放送子会社七社の監督も兼務している。


サリー・ベデル・スミスは、CBSの創設者ウィリアム・サミュエル・ペイリーの評伝の中でスタントンに言及している。スタントンの戦略はごく単純である。まず、経営陣が興味を持ちそうな情報を見抜き、そうした情報をできるだけたくさん集める――それだけだ。調査部ならではのこうした仕事をこつこつこなすことによって、スタントンは自分を必要不可欠な存在に仕立て上げた。たとえば各ラジオ番組の視聴者層、CBSが今度進出する地域のオフィス物件やその所有者、各種メディア市場の人口構成といった情報は、CBSの周辺に散らばっていて、丹念に探せば必ず見つかるものである。だが面倒くさがって誰もやらない。スタントンは進んでそれをやり、さらに、多少の策を弄して自分を演出した。本人曰く、「役員に何か訊ねられて、自分が全然知らなくても、ちょっとは聞いたことがあるふりをする。それから―で下へ行って、世界年鑑で調べるんだ。調べるとなったら徹底的にやるから、たとえば広告業界については、そこらの広告代理店よりずっとくわしくなった」そうである。


たいていの人は、つまらなそうな仕事や地味な仕事にはやる気を起こさないし、興味を持たない。そういう仕事を率先して引き受け、人並み以上にうまくやってのければ、あなたにビックチャンスが回ってきたときにケチをつける人はたぶんいないだろう。それに、たいてい重要そうでない仕事も、意外に将来の役に立つのである。


マイケルは、その典型例である。彼はビジネススクール在学中に、あるヘッジファンドから内定をもらった。夏休みにインターンとして働いて内定をもらい、その後学校に戻って課程を修了し、卒業後に正社員として入社するという段取りである。インターンはマイケルの他に五人おり、彼らは既卒者だったため、そのまま正社員として雇用された。となると「去る者は日々に疎し」というわけで、マイケルはスタートで出遅れてしまうと焦る。そこで学校に戻ってからも、できるだけヘッジファンとの接触を絶やさないようにしようと心を決めた。そしてこまめにオフィスに顔を出し、将来の上司や同僚に挨拶し、顔を覚えてもらった。またその機会を利用して、自分にできることはないかと声をかけた。そうしているうちに、ジュニアアナリストの採用事務を手伝うことになる。証券会社や投資ファンドなどの金融サービス企業では、ジュニア職を常時採用している。二、三年働いてお金を貯め、その後ビジネススクールへ行ってMBAをとろうと考えている学部卒業生などがジュニアアナリストとして雇われ、単調な仕事をこなすという仕組みである。ジュニア職とは言っても採用プロセスにはそれなりの時間がかかるため、シニアの連中はやりたがらない。ジュニアはすぐ辞めてしまうので、手間暇かける価値もないと考えるのだろう。


会社から全員宛のメールで志望者の最終面接を手伝える人はいないか、と問い合わせがあったとき、マイケルはすぐに返信した。自分は学生で時間の自由が利くから、何でもお手伝いしますよ、と。そして応募者への連絡から面接のスケジュール調整、さらにはプライベートな会食の手配まで一手に引き受けた。おかげで彼はなくてはならない存在になり、経営陣とも接することができたし、骨惜しみない気持ちのよい若者だという評判も勝ち取ることができた。また、めでたくジュニアアナリストに採用された人たちは、採用窓口にいた人間としてマイケルに好印象を持った。それやこれやで、マイケルは正社員入社前から人脈を拡げることに成功したのである。


カレンのケースも紹介しておこう。投資銀行ベンチャーキャピタルで働いていたカレンは、大手インターネットサービス会社に転職した。まったく畑違いのうえ、サンフランシスコから引っ越ししてきたという事情もあり、テクノロジー重視の新しい土地柄や企業文化の中でゼロから影響力を獲得する必要に迫られる。そこでカレンは、くだらないことに時間を無駄にするなという上司のアドバイスにあえて逆らい、ちょっとしたイベントを企画しては今度取引したい会社のマネジャーを招いたり、あるいは著名人に来てもらって講演会を開いたりした。そのおかげで業界に知り合いを増やしただけでなく、イベントの企画段階であちこちの部門にアドバイスを求めるなどして、社内の大勢の人と親しくなることができた。