第1990冊目 カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本) [単行本] オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)


頭で考えていることは体に表れる


自分の内面を知る際にまず理解するべきなのは、「脳は事実はフィクションを区別できない」ということだ。これはカリスマ的な精神状態をコントロールする際にも重要なカギとなる。


ホラー映画を見ていて、心臓がどきどきしたことがあるだろう。頭の中では作り話だとわかっているし、俳優は高額の出演料と引き換えに殺されるふりをしている。それでもあなたの脳は、画面に飛び散る血や内臓を見て本能的に闘争・逃走反応モードになり、アドレナリンを分泌する。


ここで同じような反応を体験してみよう。たとえば、お気に入りの音楽を思い浮かべながら、次の場面を想像する。


黒板を爪でひっかく。


砂が入ってバケツに手に突っ込み、爪のあいだから砂がこぼれていく。


レモンとライムはどちらが酸っぱいか。


もちろん、あなたの目の目には黒板も砂もレモンもない。しかし、これらの想像上の出来事に対し、実際に体が反応する。脳は想像と現実を区別できないから、想像している状況が現実に起きた場合と同じ反応をするように指令を出す。頭で考えていることが、体に表れるのだ。したがって、カリスマ的な心の状態になれば、カリスマ的なボディランゲージが自然と表れるだろう。


強い前向きの気持ちが肉体的な反応を招く例として、プラシーボ効果(偽薬効果)がある。有効成分が含まれていない偽の薬を本物の薬だと思って服用したり、医学的な治療だと思って関係のない処置を受けたりすると、驚くほど多くの人が、医学的な症状が実際に改善するのだ。


プラシーボ効果が語られはじめたのは第一次世界大戦中で、医薬品が手に入りにくいなか、医師が患者に痛みを和らげる治療をしたと説明すると、実際は効果のある処置をしていなくても痛みが軽減する場合があったのだ。50年代には本格的な臨床研究が行われ、広く認められるようになった。もっとも、歴史を振り返れば、医学の大半が実はプラシーボだったとも言える。医師が処方してきた薬や治療の多くは基本的に効果がないことが、今ではわかっている。それでも症状が実際に改善するのは、私たちの心の状態が肉体の状態に大きな影響を及ぼすおかげだ。


プラシーボ効果は、驚くほどの影響をもたらすときもある。ハーバード大学のエラン・ランガー教授(心理学)は、介護施設のような環境に高齢の患者を集め、彼らが20大のころに流行した装飾や衣服、食事、音楽を用意した。数週間後に患者を検査すると、肌に張りが出て、視力や筋力が向上し、骨密度も増加していた。


プラシーボ効果は、カリスマ性を高めるテクニックの多くの基礎でもあり、本書でもこれから繰り返し言及する。実は、私たちはすでにプラシーボ効果を無意識に活用しているのだ。本書を読みながらそのそのスキルを洗練させていこう。


ところで、心の状態が体の状態を変える効果には、マイナス面もある。これは「ノーシーボ効果」と呼ばれるもので、架空の条件に脳が反応し、体に有害な影響を及ぼす。ある実験では、ツタに激しいアレルギーを持つ人々の皮膚をまったく無害な薬でこすり、ツタと同じ有毒物質が含まれる植物だと説明した。すると、全員の肌に発疹が生じたのだ。


プラシーボ効果もノーシーボ効果も、私たちがカリスマを最大限に発揮する際に重要な役割を果たす。私たちが頭で考えているすべてのことが肉体に影響をもたらし、私たちの脳は現実と想像をうまく区別できないのだから、想像はボディランゲージに影響を及ぼし、したがってカリスマのレベルを左右する。つまり、私が想像する内容によって、カリスマ性を劇的に高めることもできれば、抑制することもできるのだ。