第1148冊目  スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫 [文庫]

サミュエル スマイルズ (著), 竹内 均 (翻訳)


自助論 (知的生きかた文庫)

自助論 (知的生きかた文庫)


仕事名人の秘訣


われわれは、何事も徹底的に、しかも正確に学ぶ姿勢を基本に据えなくてはいけない。知識の価値とは、どれだけ貯えたかではなく、正しい目的のためにどれだけ活用できるかにある。わずかな知識でも、それが正確かつ完璧なものであれば、上っつらの博識より現実的な目的にははるかに役立つ。


イグナチウス・ロヨラの格言の一つに、「一度に一つの仕事しかしない人間のほうが、むしろ誰よりも多くの仕事をする」というのがある。あれこれの分野に手を広げすぎると、かえって集中力を欠き、進歩も遅れ、うだつの上がらない仕事をする癖が身についてしまう。


かつてレナーズは、自分の学習法の秘訣をこう語った。


「法律の勉強を始める時、私は決心したのです。学んだ知識は完全に自分の血肉にしよう、そして一つのことがらを徹底的にマスターしないうちは、絶対に次へ進んではならない、と。ライバルの多くは、私が一週間かかって読む本を一日足らずで片付けていました。けれど、一年もたつとどうでしょう。私の知識は、それを覚えた日と同じように鮮明に残っていましたが彼らは学んだことをすっかり忘れていたのです」


人間は、勉強量や読んだ冊数で賢くなるのではない。勉強法が自分の追求する目的に適しているか、一心不乱に勉強に取り組んでいるか、勤勉が習慣となっているか――このような点こそが問題なのである。外科医アバネシーは「自分の精神には一定の飽和点がある」と主張していた。つまり知識を詰めこみすぎると、すでに覚えていた知識が頭から押し出されてしまうというのだ。医学の勉強について、彼はこう語っている。


「自分が何をやりたいのかという明確な考えさえ持っていれば、それを達成するための手段を選び損ねることなどめったにないはずだ」


確固たる目的や目標を持っていれば、勉強も実り多いものとなる。ある分野の知識を完全にマスターしていれば、いつでもそれを活用できる。この点からいれば、単に本をたくさん持っていたり、必要な情報を得るには何を読んだらいいかを知っていたりするだけでは十分とはいえない。人生に役立つ知恵を常に持ち歩き、いざというときにすぐ使えるよう準備しておくべきである。


家にはいくら大金がしまってあっても、ポケットに一銭もなければ緊急の用には間に合わない。それと同じように、いつも知識という貨幣を肌身離さず身につけて、どんな場合でもそれで取引できるよう備えを万全にすべきだ。さもないと、いざ知識が必要になった時にどうすることもできない。


自己修養においては、決断と機敏さも欠かせない。この二つの資質を伸ばすには、人間を若いうちから自立させ、自由行動の機会をできるだけ与えておくべきだ。過保護や目に余る束縛は、自助の習慣をつける妨げともなる。それはちょうど、泳ぎを知らない人間のわきの下に浮き輪をくくりつけるようなものだ。


自信のなさも、人間の進歩発展にとっては大きな障害となる。よくいわれるように、人生の失敗の半分は自分の馬が跳躍しようという時になって弱気を出し、手綱を引き締めてしまうところから起こる。


サミュエル・ジョンソンは「自分の力に自信を持っていたからこそ成功できたのだ」とつねづね語っていた。自信を持ちすぎると謙虚さが失われるのではないか、と思われるかもしれないが、実際はそうではない。真の謙虚さとは自分の長所を正当に評価することであり、長所をすべて否定することとは違う。


もちろん、なかには、自分の力を過信する身のほど知らずの人間もいる。ただ逆に、自信のなさからくる優柔不断な態度も、人間の進歩をはばむ大きな性格上の欠陥だ。自信を持ち結局果敢にチャレンジしなければ、大きな成果など望むべくもない。