第1125冊目  「権力」を握る人の法則 [ハードカバー]ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則


客観的に自分を評価する


自分を変えるためには、まずはいまの自分をありのままに評価して、何が足りないのかを見きわめる必要がある。この足りないところこそ、最も成長が期待できる。とは言え客観的に自分を評価するのはむずかしい。人は誰しも自分のことはよく思いたいので、つい点が甘くなる。自分を批判する人は遠ざけたくなるし、自分に都合の悪い情報は、できることなら無視しようとする。そして、こう言い聞かせる――これまでうまくやってこられたのだから、自分はなかなか優秀である。だからこれからこのままやっていけばいいのだ、と。エグゼクティブ・コーチングの草分けであるマーシャル・ゴールドスミスも、自らの経験に基づいて書いたベストセラー『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』の中で、自己弁護に走る癖を直すのはむずかしいと認めている。地位が上がるにつれて身につけるべきものは増えていき、新たなスキルを身につけるにはかなりの努力が必要だから、本人の断固たる意志が欠かせない。ところが自分に足りないものがあると認めるのは、自分が思ったほど優秀ではないと認めることになるため、それができない人がかなり多い。


ゴールドスミスは、自尊心の強いエグゼクティブたちのコーチ役を務めてきた経験に基づき、自分の欠点を認めたがらない(それどころか否定する)癖を正すコーチング技術を開発しようと考えた。その一つが、やってしまったことについてフィードバックするのでなく、これからやるべきことについて「フィードフォワード」を与える方法である。たとえば、次にシニアマネジャーに昇格したらどうふるまうべきか、といったことをアドバイスする。キャリアの次のステージという望ましい将来についての指摘なら、相手もさほど自己防衛的にはならない。これは非常に賢いやり方である。将来の目標達成のために自分を変える方が、過去の失敗を振り返って反省するよりも、はるかに意気が揚がるだろう。


たとえば家を売りに出すときには、傷や汚れがないか丹念にチェックし、美しく整えなければならない。それと同じように、上をめざすならば、自分自身をチェックして不足を補い準備を整える必要がある。具体的には、本書で取り上げる七つの資質をあなたなりに吟味し、自己評価をしてみてはどうだろう。それぞれについて1点(自分にはまったく備わっていない)から5点(十分に備わっており、かつ活かせている)で評価してみるとよい。もっともいいのは、誰かに評価してもらうことである。次に、点数の低かった項目を引き上げるにはどうしたらいいか、考える。そして日々努力し、進歩があったかどうか、ときどきチェックするとよい。


このとき、自己評価にはもう一つ困難な点があることをわきまえておいてほしい。それは、たとえ自分の弱点も客観的に評価しようと強い決意で臨んだとしても、それを確実に見きわめる知識や判断力を持ち合わせているとは限らないことである。あなたが好ましからぬ行動をとっていたとしても、それが好ましくないと理解できるためには、ある程度の知識や判断力が必要になる。だがしっかりした知識と判断力が備わっていたら、そもそもそういう行動はとっていなかっただろう。


私は職業柄、よくアドバイスを求められる。どんな本を読んだらいいか、転職すべきでないか、社内の政争に巻き込まれてしまったのだがどうしたらいいか、等々。きっと経営学者なら、みな同じように質問攻めに遭っているにちがいない。質問はある日突然メールで飛び込んでくる。インターネット経由で来ることも多い。そしてたいていは、質問の仕方を見るだけで、なぜ質問者がトラブルに巻き込まれてたのかがわかってしまう。この人たちは、自分のケースが非常に特殊だと思い込んでおり、類例のアドバイスを参考にした形跡がない。質問をするときにどんな材料を提示すべきか、すこしも考えていない。なぜ私に相談したいのか、説明がない。そして、周囲の環境やトラブルの元となった事柄に関する知識や理解に乏しい。たとえば、ユニシスで人事担当エグゼクティブを務めていたレイがそうだった。レイはきわめて有能で人材育成の知識に精通しており、幹部社員研修を長年担当していたにもかからわず、自分の置かれた立場をまったく理解していなかったために、政治的駆け引きに敗れて解雇された。レイと話していると、いくら専門知識があり勤勉に働いていたとしても、組織内のパワーポリティクスを全然わかっていなかったのだとつくづく感じる。レイは、自分が何を知らないのかを知らなかったのである。