第2045冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 自信


二〇年ほど前、女性で初めて神経外科教授になったフランセス・K・コンリー医師の行動分析をさせてもらったことがある。あるときコンリーは回診中に部下の研修医と行き合わせ、悪性脳腫瘍の患者について相談しはじめた。今日でも悪性脳腫瘍はむずかしいが、二〇年も前のことだから、いま以上に治療の選択肢は限られていた。コンリーもいささか不安そうで、研修医にまで意見を求めたのである。だが患者の病室に入るときには、彼女の態度は一変していた。病状が深刻であることは否定しなかったし、予後について嘘をつくこともしなかったが、コンリー医師は自信のある落ち着いた態度で自分が最善と考える治療法を説明した。後でそのことについて質問すると、「病気にはブラセボ(偽薬)も効くし、ものの考え方や気の持ちようも効く。だから、患者を落ち込ませたり、絶望させたりしないよう気を配っている」とのことだった。もし医師が自信なさげだったら、患者は不安になるだろう。そして、あやしげな民間治療にすがるなど、好ましくない行動に走るかもしれない。


組織での地位や肩書きは権力や影響力の源泉となるが、現実には、あなたの地位を知らない第三者あるいは同僚と仕事をする場面が多いだろう。そんなとき相手は、あなたが信頼に足りる人物かどうかを見きわめようとする。そこでぐらついてはいけない。あなたという人間をどの程度重んじるべきか、どこまで任せても大丈夫かを決めるにあたって相手が注目するのは、外に表れる行動や態度である。権力や影響力を持っている人は自信たっぷりにふるまうので、逆に自信ありげな言動を見ると「この人にはきっと力があるのだろう」と考えやすい。したがって自信のある態度を示し、それに見合う知識を備えていれば、影響力を獲得することができる。


その一例として、アマンダのケースを紹介しよう。アマンダは大手消費財メーカーの有能なエグゼクティブで、会社から派遣されてMBAコースに在籍していた。給与をもらって一年間のコースに送りこまれたこと自体、会社がかける期待の大きさの表れと言えよう。問題は、やや控えめなアマンダ自身がこのチャンスを生かせるか、ということだった。コース修了時にアマンダは報告を兼ねて上司にメールを送ろうと考え、下書きを作成する。そして送る前に、クラスで仲良くなった友達(やはり女性エグゼクティブである)に見せた。するとこの友人は全体を力強いトーンに書き換え、より上の地位で力を発揮したいことを伝えるとともに、具体的にどのような分野を希望するかをはっきる書き加えるべきだと主張する。手直しした文章はアマンダから見るといやに厚かましく、送るのは気が引けたが、迷った末にそのまま送った。すると驚いたことに、会社は好意的な反応を示したのである。経営陣は、アマンダの自信に満ちた論調や仕事上の野心を好ましいと感じた。考えてみれば、当然である。経営幹部は日頃そのようにふるまっており、アマンダは彼らと同じ姿勢を示したに過ぎないのだから。


自信を誇示するのは、とくに女性にとってはむずかしいようである。女性は慎み深く控えめにふるまうべきだという社会的期待があるのだろう。だがそのようなふるまいは、キャリア形成では不利になりやすい。社会心理学者ブレンダ・メジャーの調査では、女性は同じ給与水準の男性より長時間勤勉に働いていることが判明した。また要求する給与の額が男性より少なく、初任給や到達可能な最高額についても期待値が低い。この調査から、女性は自分を過小評価する節があり、それが給与の交渉でも不利に作用していることがうかがえる。社長の報酬ですら男性と女性で差があるのは、おそらくこのためだろう。


自分が自信がなくしっかりと自己主張ができないと、給与だけでなく何事でも不利になりやすい。これは女性に限った話ではない。自信さなげな人は、自信ありげな人にどうしても押されてしまう。