第2314冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)


パワーと誠意


パワーがある人とは、周囲に影響力を及ぼせる人だ。支配力がある、大金を動かせる、専門知識や知性が高い、肉体的な力が強い、社会的な地位が高いなど、さまざまな影響力がある。パワーがあるかどうかは、外見や、その人に対する周りの反応などをもとに判断するが、とくに重要な手がかりとなるのがボディランゲージだ。


カリスマの3つ目の資質である誠意は、広い意味で他人に対する善意に含まれる。誠意があるかどうかで、その人が持つパワーを、私たちのために使おうとしているかどうかがわかる。親切さ、利他的な気持ち、思いやり、世の中を良い方向に動かそうという思いなど、誠意はさまざまなかたちで伝える。また、誠意はボディランゲージと振る舞いによって判断され、パワーより率直に評価される。


たとえば、初対面の人と向き合っているとしよう。相手の経歴や、友人知人の評判を聞くわけにいかず、時間をかけて相手の振る舞いを観察する余裕もない。そこで、あなたはまず相手がどんな人かを推測する。


続いて言葉をかわしながら、本能的に相手のパワーと誠意の手がかりを探し、それに合わせて先の推測を修正していく。高価そうな服を着ていれば裕福だと推測し、友好的なしぐさから善意のある人だと推測し、貫禄たっぷりの態度から、何かしら自信のある人だろうと推測する。つまり、相手のパワーと誠意を推測する際は、相手が投げかけるイメージを基本的にすべて受け入れようとする。


したがって、パワーと誠意をより多く伝えることができれば、相手はそれを受け入れ、あなたのカリスマは高まる。さらに、パワーと誠意を併せて伝えれば、最大限のカリスマを発揮できるdさろう。


現代では、パワーがある人だと認められる方法はたくさんある。知識を示し(たとえば、ビル・ゲイツ)、思いやりを通じて伝える(たとえば、ダライ・ラマ)こともできる。一方で、原始の時代の人間にとって、パワーは1つしかなかった――動物的な力だ。もちろん、当時も知識は重要だっただろうが、現代社会に比べればはるかに価値は低かった。ビル・ゲイツがジャングルで活躍する姿は想像がつかない。ただし、むき出しの肉体的な力と攻撃で地位を得た人々のうち、誠意も惜しみなく示す人はほとんどいなかった。パワーと誠意の両方を兼ね備える人は、かなり貴重な存在だった。自分たちを助けてくれる誠意があり、実際に助けられる力を持っている人を見きわめることは、生存競争のカギを握っていた。


だからこそ、人間の脳はパワーと誠意に本能的に反応する。脂肪と糖分に対する反応と似ているだろう。私たちの祖先は、脂肪と糖分を積極的に摂取して生き延びてきた。原始の自然において、脂肪と糖分を確保することはきわめて困難だった。こんにちでは脂肪も糖分もありあまるほどだが、本能的な反応は変わらない。カリスマに関しても同じで、パワーと誠意を兼ね備えた人は昔に比べてかなり増えたが、これらの資質は今も私たちの本能に強く訴えかける。神経画像診断を使った実験からも、他人を評価する際はこの2つの資質を真っ先に判断することがわかっている。


言うまでもなく、パワーも誠意もカリスマに欠かせない資質だ。パワーはあっても誠意がない人でも、周りに強い印象を与えるかもしれないが、カリスマと見なされるとはかぎらない。むしろ傲慢だ、冷たい、よそよそしいと思われやすいだろう。一方で、誠意はあるけれどパワーがない人は、好感は持たれるだろうが、やはりカリスマと見なされるとはかぎらない。感情が過剰だとか、媚びている、気に入られようとしていると思われやすい。


ウィリアム・グラッドストンは1874年の総選挙に際し、パワーを発信した。強い政治力と有名な人脈を持ち、鮮烈な知性と深い知識があることで知られる地位の高い紳士として、食事を共にした若い女性に自分のパワーを印象づけたが、彼女に彼女自身を特別な存在だと思わせる誠意がなかった。


一方のベンジャミン・ディズレーリも、パワーを発信した。彼も強力な政治的影響力で知られ、素晴らしいウィットと豊かな知識の持ち主だった。ただし、ディズレーリの本当の才能は、彼と話していると誰もが自分は知的で魅力的な人間だと感じることだった。彼はパワーとともにプレゼンスと誠意を発信し、それに見合う結果を手にした。


カリスマを発揮する方法はほかにもあるが、プレゼンスとパワーと誠意の組み合わせは、カリスマの潜在能力を最大限に引き出すアプローチとしてとりわけ効果的だ。